もし亡くなったら――いま熱いデジタル遺品(前編)萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2015年10月23日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
前のページへ 1|2       

あなたは「争続」? それとも「想続」?

 先日から毎週地上波のテレビ放送で「遺産争続」が取り上げられている。「争続」の漢字が間違っていると思わるかもしれないが、いまや「相続」は骨肉の争いの場となっており、実態は「争続」につながるばかりだ。しかし、事前に関係者同士がとよく話し合い、納得されることで「想続」にすることができる。

 通常のご家庭ではこういう声をよく耳にする。

うちは相続なんて関係ない。そんな財産なんてない

うちの子供たちは心根が優しい。遺産で争うはずがない

 みなさんこうおっしゃるが、現実は全く違う。

 相続による裁判も急増している。しかも相続する財産が問題であり、裁判沙汰となった相続の約3割は財産が1000万円以下だ。ちなみに、首都圏で30坪の一戸建てに住んでいれば評価額は1000万円以下になることは少なく、現預金や株券などを含めれば、軽く超えるだろう。

 実は、相続とは無縁と思われるご家庭ほど「争続」となっていることに注目していただきたい。逆に財産が数十億円以上になる相続で「争い」にまで至るケースは非常にまれだ。その理由は極めて簡単で、財産の多くが「土地と家屋」である庶民に比べ、多額の資産になる場合は現預金や宝飾品、金や絵画などが豊富にある「分割しやすい財産」となっていることから、争うにまで至らない。

 また、ドラマなどでは遺言書による相続割合が問題に描かれるが、現実に遺言書を作成する人は1%に満たない。基本的な割合は法律に準じることになるケースが多い。ところが庶民の場合は、分割できない「土地と家屋」が遺産全体の多くを占める。一般的なケースはこうだ。

家族構成:母親70代、長男40代、長女40代

父親が10年前に他界。長男夫婦が同居し、母親を5、6年前から看護している。長女は遠隔地に嫁いだ。長男は母親の介護のため有給をぎりぎりまで消化し、父親の財産とともに自分の財産すり減らしながら介護をしてきた。長女は正月と盆に顔を見せる程度だった。


 こういう環境で母親が亡くなったと仮定する。すると、すぐに遺産相続の話となるが、長男は「こっちは多くの苦労をして介護をしてきた。せめてこの土地と建物は譲ってほしい」という。しかし長女は「半分は私の権利だ。現金は死亡保険金と併せても300万円。自宅の評価額は1800万円だから、計2100万円になる、その半分の1050万円を現金でくれればいい」と。

家族の絆を打ち切るかもしれない「争続」

 しかし長男は納得できないだろう。そんな現金もないし、それまで苦労して介護し、長女に譲れるのは死亡保険金くらいだと考える。長男と長女はかつて仲が良かった。そんな長女が「現金を用意できないなら競売しろ」といって弁護士を立てきた。

 裁判になると、まず長男に勝ち目はない。相続と介護費用や苦労の問題は切り離して検討されるのが通例だ。よって自宅が強制的に競売にかけられ、長男は住み慣れた自宅を手放し、アパート暮らしになる。せめて介護での負担を長女に請求しようと思っても、「領収書を出せ」と言われるが、せいぜい1年分くらいしか得られない。この時点で完全に子どもたちの縁が切れる。

 いま、こういう“相続プア”になってしまう事象が全国で多発している。たぶん天国で母親は、「私がが甘かった。きちんと整理し、誰に何を相続させるのか、生前から子どもたちが納得して、きちんと遺言書をしたためておくべきだった」と嘆いているだろう。

 次回は核心であるデジタル遺品の定義から入り、なぜ皆さんが苦労しているのか、そしてその対応策について述べたいと思う。

編集部からのお知らせ

11/12(木)開催の情報漏洩対策をセミナーでは本連載の萩原栄幸氏が講演! サイバー攻撃や内部犯行のリスクに対応する情報漏洩対策の新たな視点と方法を解説します。ご参加をお待ちしています!

日 時:2015年11月12日(木) 18:00〜20:10(受付 17:30〜)

会 場:アイティメディア セミナールーム

参加費:無料(事前登録制)

詳細・お申込みはこちらから


萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ