トップ企業に聞く、ITと社会貢献

企業・業界の枠を超えたつながりでデジタル革新を実現する――富士通・阪井常務2016年 新春インタビュー特集

ICTがつなぐ企業や組織のコラボレーションが新たなビジネスやサービスを生み出し、社会に価値を提供していく。その実現に向けて数々のチャレンジを重ねてきた富士通は2016年にどう臨むのか――。

» 2016年01月18日 08時00分 公開
[國谷武史ITmedia]

新春インタビュー特集:「トップ企業に聞く、ITと社会貢献」

 自然破壊、超高齢化社会、経済格差、ダイバーシティ……現在、私たちの世界はさまざまな困難に直面しています。政界や経済界など、いろいろなプレイヤーがその解決に向けて動いていますが、近年はITベンダーも有力なプレイヤーになりつつあります。

 ITでどのように社会課題に向き合い、どう解決していくのか――。本特集では、有力ベンダー各社のキーマンに、その取り組みと思いを聞いていきます。

―― 富士通では社会がどのような課題に直面し、課題の解決に向けてどのようなアプローチを考えていますか。

富士通 執行役員常務 グローバルマーケティング部門長 阪井洋之氏

阪井洋之氏(以下、敬称略) 世界的にみると、人口の増大や先進国を中心とする高齢化、温暖化をはじめとする地球環境、都市化の進行などがあり、こうした課題が複合的に進行することによって社会の持続的な成長を脅かされると思います。解決に向けて2つのアプローチがあると考えています。

 1つは社会を取り巻く課題にICTを活用していくものです。2015年はクラウドやIoT、ビッグデータといったICTの活用を通じて社会に貢献できることに広がりが見えてきました。富士通では以前から「ソーシャルイノベーション」というメッセージのもとに、従来ICTの活用が進んでいなかった農業や医療・介護などのさまざまな分野にICTを適用していく取り組みを進めてきました。

 もう1つは企業のデジタル革新をご支援することです。近年はSoE(Systems of Engagement)やSoR(Systems of Record)の活用が注目されていますが、企業では実際のビジネスを強くしたり、新しいビジネスモデルを作ったりといった動きが、2016年は顕著に進むでしょう。富士通はお客様とデジタル革新の実現に向けた取り組みを一緒に進めていますが、具体的な変革モデルが次々に登場しています。このモデルを広げることで日本の企業が元気になり、社会に貢献できるようにご支援してきたいと思います。

―― 社会が抱える課題の解決と企業の変革の両面がつながっていくということでしょうか。

阪井 2015年度は「ヒューマン・セントリック・イノベーションインアクション」というメッセージを通じて、まずは新しい取り組みを一緒に始めましょうとお客様に呼び掛けてきました。300以上もの新しい技術や概念、事業の実証に取り組んでいますが、この中から成功モデルが登場しています。

 例えば、農業分野ではスマートアグリカルチャー事業として静岡県磐田市様、オリックス様、増田採種場様、当社がICTを活用した大規模な野菜の栽培に取り組んでいます。ICTで農業の現場が抱える課題を解決していくことに加えて、生産から流通までの食のサプライチェーンにも広げる取り組みを自治体や企業が一緒に推進しているところです。また、Akisai事業での経験を生かし、ベトナム・ハノイに日本の農業のショールームも開設しました。農業が主力産業のアジアではICTを利用する日本の技術が注目されています。また、地球温暖化対策の一環として電力分野でレオパレス21様と賃貸住宅の屋根を活用した太陽光発電事業を始めており、当社はIoTとクラウドを活用した監視サービスを提供しています。

 こうしたお客様との共創から、さまざまなビジネスモデルや社会インフラにおける変革が成功モデルとして生まれています。富士通は成功モデルをソリューションとして日本国内、さらにグローバルにも展開していきます。

―― 2016年の企業メッセージでは“デジタル”がキーワードになっています。

阪井 富士通のユーザー会でもテーマが大きく様変わりしています。業務システムを中心としたビジネスへの貢献だけでなく、企業としてのデジタル革新にもっと、どう貢献していくべきかという議論が活発に行われるようになりました。

 デジタル革新というと、これまではeコマースやM2Mといった領域が先行していましたが、“見える化”をすることからビッグデータとして利用し、さらには高度な分析やAI(人工知能)を利用して新たな付加価値を生み出していこうという活用の高度化が進み出したという印象ですね。

 300を超える実証の取り組みでも特にマーケティング分野が目立ちます。従来はCRMやコンテンツマネジメントといった仕組みにとどまっていましたが、全ての顧客接点における情報を「プライベートDMP(デジタルマネージメントプラットフォーム)」のような1つのデータベースに集約し、ビッグデータとして高度に活用していく動きです。ここまでになると、従来の基幹系システムが持つSoRの情報を密接につなげていかなければ価値を生み出すということが難しくなります。

 富士通ではデジタル革新のためのプラットフォームとして「MetaArc(メタアーク)」という新ブランドを立ち上げました。「Meta」はギリシャ語で“超える”、「Arc」は弧を描いてつなぐとの意味でして、企業や業界の枠を超えてお客様やビジネスをつなげていきたいという想いがあります。「MetaArc」は、IaaSとPaaSのプラットフォーム「Fujitsu Cloud Service K5」上にSoEとSoRをつないで活用していくためのモバイルやビッグデータ、IoT、AIなどのPaaSレイヤを実装しています。

 実際にお客様との商談ではSoEのためのシステムの大型化が進んでいますし、SoRの基幹系システムをクラウドに移行するといったニーズが非常に増えている状況ですね。当社も業務システムをK5へ全面的に移行させているところです。システムを移行しやすいクラウドを目指し、社内実践を蓄積してきたノウハウやスキル、当社が強みとしているグローバルで均質なサポートをお客様にご提供していきます。

―― 2016年から先に向けた抱負をお聞かせください。

阪井 やはり、企業や業界といった枠を超えたつながりが価値を創造するのだと思います。さまざまなプレイヤーをつなげ、価値や変革を実現していていく世界にしたいですね。そのためには、オープンイノベーションが不可欠ですし、例えばFinTechのコンソーシアムを立ち上げ、多くの金融機関やベンチャー企業と共創しながら、新しい金融サービスの立ち上げに取り組んでいます。

 また、これからはシステムインテグレーションの方法も変わっていくでしょう。従来型のシステムインテグレーションを生かし、いろいろなサービスをAPIでつなげてデータ活用の領域を進化させていく「ナレッジインテグレーション」というものです。デジタル革新を通じてお客様企業に強くなっていただくためには、富士通自身もこの世界に強くならなければ貢献できません。そのために、システムエンジニアのスキルトランスファーをはじめとする取り組みを強化していきます。

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