古いIT資産をDocker環境へ移行するには多面的な検証が必要です。今回は「延命措置」のシナリオから、実際に古い物理サーバからDocker環境へ移行する手順を紹介します。
前回の記事では“根が深い”古いIT資産をDocker環境へ移行する方法について見てきました。4つの方法について、それぞれ多面的に検討する必要があり、単純にユーザーデータのみを吸い上げてリストアできればよいというわけにはいきません。
その中でも比較的、行われている古いIT資産の移行方法は、物理サーバ環境の内蔵ディスクをイメージファイルとして吸い上げ、オンプレミスの仮想化環境、あるいはDocker環境に移植する方法です。このような移植は、古いサーバ環境のOSとアプリケーションをそのまま新しいハードウェア環境で使い続けることになるため、「延命措置」と呼ばれます。
延命措置は、古いOSとアプリケーションをそのまま利用するため、OSのインストール、セットアップ、アプリケーションの新規開発・構築をせずに済むという開発工数を削減するメリットがあります。そのために、物理サーバから仮想化基盤への移行ツールがリリースされています。オープンソースで提供されている無償のP2Vツールとしては、以下が挙げられます。
表:オープンソースのP2Vツールの例
方法 | KVMゲストOSイメージに変換 | Docker環境に変換 | 備考 |
---|---|---|---|
ddコマンド | 可能 | なし | Linux標準コマンド |
virt-p2v | 可能 | なし | CDブートで旧サーバを起動 |
Relax and Recover | 可能 | なし | NFSサーバへの保管が可能 |
MondoRescue | 可能 | なし | リカバリDVDの作成が可能 |
Clonezilla | 可能 | なし | ミラクル・リナックスの商用版が有名 |
openQRM | 可能 | なし | 異種混在の仮想化環境に対応 |
しかし、物理サーバから仮想化基盤への移行を実現するP2Vツールは、決して万能ではなく、古いサーバのハードウェアを正しく認識し、正確にP2Vが実行できるかどうかは、やってみないとわからないというのが現実です。
さらに、上記の表からも分かるように、物理サーバ基盤をDocker環境に直接移行するツールは、2016年現在リリースされていません。そこでDocker環境への移行は、P2Vツールを使って仮想化環境のゲストOSイメージに変換し、ゲストOSイメージをさらにDockerイメージに変換する必要があります。今後は物理サーバからDocker環境、あるいはハイパーバイザ型の仮想化環境からDocker環境への移行ツールなども整備される可能性がありますが、いずれにせよ物理サーバから別の環境への移行は、さまざまなツールが存在するものの万能ではなく、うまく動かない場合もあるということを念頭において、移行計画を立案する必要があります。
それでは、具体的に古い物理サーバで稼働するアプリケーションの環境をDockerに移行してみましょう。今回は話を単純にするため、外部ストレージを接続していないサーバ単体で稼働するアプリケーション環境の移行を前提に進めます。まず、移行元となる古い物理サーバと移行先のDocker環境は以下の通りです。
項目 | 移行元 | 移行先 |
---|---|---|
使用開始時期 | 2007年11月 | 2015年4月 |
サーバ機種 | HP ProLiant DL365 G1 | HPE ProLiant DL160 Gen9 |
CPU | AMD Opteron 2218 2.6GHz x2 | Intel Xeon E5-2603 1.6GHz x1 |
メモリ | 4Gバイト | 24Gバイト |
NIC | 1GbE x2ポート | 1GbE x2ポート |
RAIDコントローラ | HP SmartArray P400i | HPE SmartArray B140i |
HDD容量 | 72Gバイト | 3テラバイト |
論理ディスク | /dev/cciss/c0d0 | /dev/sda |
パーティション | /dev/cciss/c0d0pX | /dev/sdaX |
外部ストレージ接続 | なし | なし |
OS | RHEL 5.9 x86_64版 | CentOS 7.2 |
仮想化での利用 | なし | なし |
用途 | 社内Webサーバ | Dockerホスト |
コンテナエンジン | なし | Docker 1.9.1 |
移行ツール | virt-p2v | virt-v2vとvirt-tar-out |
IPアドレス | 172.16.1.65/16 | 172.16.32.5/16 |
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