“使ってもらえるIoT”を目指せ! スマートキー開発でリクルートが切り拓く未来

IoT(モノのインターネット)の活用に向けたさまざまな研究開発が進む中、リクルートテクノロジーズの研究開発組織「アドバンスドテクノロジーラボ」が「オートメーションキー」を開発し、大東建託と新たな取り組みを始めた。同社はIoTの活用を通じて、どのような将来像を描こうとしているのか――。

» 2016年02月18日 10時00分 公開
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リクルートが着目するIoT、その用途とは?

 情報を通じて企業と生活者を“つなぐ”ことにより、快適な社会を実現する――技術によってこのビジョンの実現とイノベーションの創出に取り組んでいるのが、リクルートグループでITやネットマーケティング技術の開発・提供を手掛けるリクルートテクノロジーズだ。同社の研究開発組織「アドバンスドテクノロジーラボ」(以下、ATL)ではIoT(モノのインターネット)をはじめ、自然言語解釈技術やロボット技術など、時代の先端を行く研究が行われている。

 近年の技術革新の中でもIoTやスマートフォンの登場は、ユーザーがリアルタイムかつ手軽に多様な情報を入手できるようにしただけではなく、生活を便利にする幾つものサービスや機能を実現すると注目されている。ATLではIoT分野における研究成果として、企業のビジネスと生活する人々に貢献すると期待される「オートメーションキー」を開発。建設・不動産大手の大東建託株式会社の協力を得て、2016年1月からスマートフォンとオートメーションキーを使い賃貸物件の鍵の利用や管理を効率化する取り組みを開始した。

リクルート リクルートテクノロジーズ ITソリューション統括部 アドバンストテクロジーラボ シニアアーキテクトの菅原健翁氏

 IoTで期待される応用分野は、自動車の自動運転技術や生産ラインの自動化など極めて広い。その中でATLは、なぜ賃貸物件の鍵に着目したのだろうか。ATLのシニアアーキテクトを務める菅原健翁氏は、次のように話す。

 「リクルートグループの根幹は、発信した情報をできる限り多くの生活者に活用してもらうことにあります。IoT時代が到来してもこの点は同じです。スマートフォンやPC以外にも情報の配信先となるデバイスをできるだけ多く家庭に持ち込んでもらうことが社会的イノベーションにつながると考え、試行錯誤の末にたどり着いたのが、あらゆる人が常に携帯しており、家に入るのに欠かせない鍵でした」

 菅原氏の開発したオートメーションキーは、スマートフォンなどにインストールしたアプリケーションを利用して物理的な鍵を安全かつ便利に操作する「スマートキー」とも呼ばれるソリューションである。

数万の鍵を内覧者に効率的に届ける“秘策”

 菅原氏がスマートキーに着目したきっかけは、ドイツのとあるベンチャー企業で行われている、スマートフォンなどをつかったドアのエントリーシステムの事例に触れたことだった。欧州では物件を内覧するために管理者がたくさんの鍵の束を持ち歩く必要があり、管理者の悩みになっていたという。ドイツの事例は、こうした悩みをキーレスエントリーによって解決しようとしたものだった。そこで国内の状況を調べてみると、この問題はさらに深刻であることが分かったという。

 というのも、大手のディベロッパーともなれば管理する物件の鍵の数は数十万を超える。加えて、賃貸では仲介業者が介在することが一般的だ。そうした状況において物件の賃貸を希望する内覧者への鍵の受け渡しは非常に手間のかかる業務である。内覧時に希望者が施錠し忘れてしまうこともあり、管理者は鍵にまつわる業務の効率化とセキュリティの向上に長年頭を悩ませてきた。

 スマートキーは、こうした課題解決のために以前から注目されてきた。しかしながら、その採用はあまり広がっていない。普及が進まない主な理由の1つは、多くの製品が一般住宅向けに開発され、その技術的な制約から鍵を7つまでしか作れないという点である。管理者は多数の仲介業者に物件紹介を依頼しているため、鍵の数の制約があるのではスマートキーを業務に適合させるのは難しいだろう。また、多くのスマートキーは専用装置をドアに取り付ける工事も必要になるため、物件としての資産価値の低下を危惧する管理者が少なくない。

 こうした理由から、物件の管理用途としてのスマートキーは遅々として進まなかった。逆に言えば、問題を克服できれば全国にある住宅の鍵のスマート化が実現され、その先駆者は広大な潜在市場の開拓にいち早く乗り出せるというわけだ。

 「研究では対応可能な鍵の数の上限を失くすこと、鍵にまつわるセキュリティの向上に貢献すること、物件の価値の毀損(きそん)を回避することを技術的な要件に挙げ、2013年から開発作業を進めてきました」(菅原氏)

リクルートリクルート リクルートテクノロジーズが開発したオートメーションキー。鍵のツマミを模したスマホのアプリの画面(写真左)を指で回すと、Bluetoothを介してドアに取り付けられた専用装置が鍵を操作する(写真右)

ITとモノづくりの複合技

 菅原氏が技術要件に挙げた3つの課題をどう克服したのかについて見ていこう。

 まず鍵の数の制限という課題は、スマートフォンと専用装置の通信に利用するBluetoothの規格の制約に起因する。ペアリングによって両機器の接続性を確保するが、いわゆる“親機”と“子機”の考え方から、親機となる専用装置には子機となるスマートフォンを7台までしか登録できないのだ。

 そこで菅原氏は、この親機と子機の関係を逆転させるアプローチを採用。スマートフォンを親機、専用装置を子機とし、必要な通信をした後に通信接続を即解除するようアプリケーションを工夫して、鍵の数という制限を根本的に解決した。

 2つ目の鍵にまつわるセキュリティの向上では、「誰がどの部屋を開けられるか」を管理者がシステムから常に管理できるようにすることで対応した。物件案内の担当者には一人ひとりに固有のIDが割り振られており、許可を受けた物件の玄関ドアしか操作することができない。そのため、意図しない人間が部屋の鍵を開けたり、スマートフォンを紛失した際に誰かが悪用したりする心配もないという。

 「内覧終了後にシステムのIDと専用装置の設定を解除すれば、即座に使えなくすることもできます。また、解錠や施錠などの操作のログはID情報と一緒にシステムに全て保管されますので、何か問題が発生した場合にもログなどの情報から原因を調べることができます」(菅原氏)

 3点目に関しては、工事不要で専用装置をドアに取り付けられる独自の機構を開発。加えて、さまざまな形状のサムターン(玄関ドア内側の鍵を開け閉めする「ツマミ」)へ対応できるよう徹底的にこだわっている。

 菅原氏によると、一般的なスマートキーの専用装置ではサムターンの形状に合わせてアダプターを使い分ける必要がある。そこで菅原氏は、大東建託の協力を得て多数のビルを周りながらさまざまなドアやサムターンの形状を分析。オートメーションキーの設計に独自の伸縮構造を採用するなど分析結果を生かして、サムターンの形状の違いに左右されない専用装置を実現した。

アプリ画面のサムターンの画像を指でなぞると、専用装置が動作して施錠される
アプリは「施錠」「解錠」ボタンの画像をタップしても操作可能だ

 「専用装置はどのような形状のサムターンにも対応でき、取り付けや取り外しも手軽にできますので、1台の専用装置をさまざまな物件で利用できます。契約済みの部屋の装置を次の案内物件へそのまま設置することができるので、管理会社の現場担当者の作業負担やコストの軽減につながるのではないでしょうか」(菅原氏)

 菅原氏が開発したオートメーションキーは、IoTシステムとして見れば非常にシンプルな仕組みだ。そのためIT面での開発は比較的進めやすかったという。一方で専用装置の構造など、“モノづくり”の面では苦労の連続だった。例えば、新しいドアの鍵を回転させるには想定以上のトルクが必要だと判明し、菅原氏は協力会社と連携しながら、より出力の高いモーターを探し回ったり、サムターンを回転させるギアの構造を工夫したりするなど試行錯誤を繰り返したという。

リクルート 専用装置におけるモノづくりでは試行錯誤を重ねてきたという

“民泊”などへの応用にも期待

 オートメーションキーは、鍵の効率的な管理・運用のみならず、家に住む人の暮らしに貢献していく役割も期待される。1人が持ち歩く鍵の種類や数も多いだけに、ビッグデータ活用の基盤と組み合わせていくことで、従来にはない新しい生活サービスの実現につながるだろう。オートメーションキーのパートナーの大東建託からも大きな期待が寄せられているという。

 「遠隔操作を用いれば、内覧希望者に同行している担当者が物件管理会社に電話すれば、スマートフォンがなくても、遠隔操作で玄関ドアを解錠してもらえるといった使用方法も考えられます。このような価値の実現にITでどう貢献できるかが、当社の腕の見せ所でもあります」(菅原氏)

 その応用として特に不動産関係者から関心を集めているのが、外国人観光客の増加に伴う、いわゆる「民泊」での活用だ。国を挙げた外国人旅行客の誘致が広がる中、特に宿泊施設の不足が問題視されている。オートメーションキーなら、観光客が宿泊したい部屋を容易に内覧でき、施解錠操作のデータでセキュリティや管理性も担保できる点が高く評価されている。この他にも、多くの利用者がいるシェアハウスでの鍵の安全で効率的な管理といった応用も期待されている。

 菅原氏は、オートメーションキーの開発プロジェクトを振り返って、将来を次のように展望する。

 「プロジェクトにおける一番のハードルは、実は開発というより、商用化の芽があるかどうかという判断でした。オートメーションキーの開発を広く紹介したところ、今回は偶然にも大東建託様からご相談をいただき、実用化を視野に入れた取り組みをスタートすることができました。IoTの実生活への活用はまだまだ未知数ですが、今回のような取り組みを通じてより良いモノを実現することができます。IoTによる新しい価値をもっと社会に還元していきたいですね」(菅原氏)

リクルート

 IoTをはじめ、先端の研究を新しい価値に変えていくリクルートテクノロジーズのこれからにもっと注目していきたい。

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提供:株式会社リクルートテクノロジーズ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2016年3月17日