AIが“エンタープライズIT”を再定義する

「AI×ビジネス」が広がる今後、情シスは何をすればいい?AIの「今」を知る【後編】(3/3 ページ)

» 2016年03月15日 08時00分 公開
[やつづかえりITmedia]
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AIはまだまだ“伸びしろ”がある、ただし……

photo KDDI総研 リサーチフェローの小林雅一氏

 昨今話題になっているIBMの「Watson」やソフトバンクの人型ロボット「Pepper」は、こちらの問いかけに応えるという、会話によるコミュニケーションができることが特徴だ。「これぞ最先端のAI」という印象を受けるかもしれないが、実はこれは最新の技術と古い技術を組み合わせたものだという。

 「WatsonにしてもPepperにしても、本当の意味で人間の言葉を理解しているわけではなく、そう“見せかけている”だけです。人間の言葉を聞きとる『音声認識』の部分は、ディープラーニングなど最新鋭のAIによって大きな進歩が見られました。ところが、聞き取った言葉の意味を理解して会話する『自然言語処理』の部分は、昔から研究が続けられてきましたが、実はそれほど大きなブレークスルーはまだ起きていません。

 iPhoneのSiriなども会話をしているように感じられますが、あれは“チャットボット”と言って『こう言われたら、こう返す』というパターンに従って返答する、ある種『便宜的』な方法を取り入れているわけです」(小林氏)

 人工知能の研究が始まった当初の目的であった「人間の脳を模倣する」という考え方からすると、WatsonやPepperもまだまだ人間の知能からは程遠い。これらはむしろ、旧来の自然言語処理に磨きをかけて実用化にこぎつけたAI技術と言うことができる。一方で、本当に人間の脳と同様のメカニズムで会話するAIを目指す研究者もいる。

 「基礎研究の分野は、モノを見たり聞いたりして認識するというレベルから次のフェーズに移り始めています。ただしこれは非常に難しい。これまでは、脳科学者が動物実験によってモノを見るときの脳の動きなどを解明し、その成果をAI研究に取り入れてきたわけですが、今後は自然言語処理や、考える、物事を推論するといった、人間特有の高次の処理を解明していかなければなりません。それは動物実験では分かりません。人体実験は倫理的な面でも非常に難しいですから、AI以前に脳科学がこれからどうやっていくのかが問題です」(小林氏)

 AIの先端研究が大学から企業に移り、技術の発展が難しいフェーズに突入している今、AIの進歩や注目はむしろビジネス面での応用にかかっているといえるだろう。ITベンダーもさまざまなソリューションを出しており、AI活用における参入障壁は下がりつつある。

 文字通りAIが“誰にでも”使えるものになれば、その先に待っているのはビジネスとアイデア勝負の世界だ。運用業務はAIに任せればいい――そんな時代も近いかもしれない。そうなる前に、小林氏の言うように、AI技術の進歩を追いつつ、それがどのように業務に生かせるか考え続けることが、情報システム部門に必要な動き方なのかもしれない。

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