自社のビジネス課題をIoTやインダストリアルインターネットで解決しようとGEに問い合わせる企業は多いものの、まだまだIoTによる課題解決のアプローチに慣れていない企業は多いと新野氏は話す。
「課題を出す前に提案を求められるケースは多いですね。あと、これは日本だけではありませんがデータを外に出すことに対して抵抗がある企業は多いです。クラウドに出すと自社のノウハウを奪われるのではないか、GEに利用されるのではないかといった懸念ですね。
こればかりは信じてもらうしかないのですが、GEデジタルのクラウドは、中の人間でも触れないようなセキュリティを担保しています。確かにノウハウは大切ですが、データを“持っているだけで価値がある”と考えている企業が多いように思います。データは適切な形で使わなければ、価値を生まないのです」(新野氏)
このほかにも、製造業では工場ごとやラインごとの最適化はできているものの、企業全体の最適化にまで及んでいないというケースも多いそうだ。効率化はされているが、課題がないわけではない、と新野氏は強調する。
「今はまだ、企業全体の業務最適化というニーズは高くないのかもしれません。しかし、『製造機械が表示する数値を、オペレーション室にいる人間がリアルタイムで把握できるようになる』だけでも、できることは広がると思います。異常が出たらアラートを出す、機器が壊れる予知をするなど、業務全体を俯瞰する視点を持てば、課題や改善点は数珠のように出てくるはずです」(新野氏)
IoTに対して足踏みする企業が多い中、プロジェクトの可否を分けるポイントとして新野氏は経営層と現場層それぞれの“意識”を挙げる。
「こうしたプロジェクトにおいては、経営層のコミットメントが重要になります。ボトムアップでプロジェクトを大きくしようとして、経営層ではねられるというケースも少なくありません。そして、現場層の意識にも注意すべき点があります。新たなことを始めようと考えると、すぐに新たにセンサーを取り付ける話になりがちですが、センサーを増やせばそれだけコストもかかるでしょう。
われわれはまず『今あるデータを有効活用する』視点でリソースを見直します。これまで作業者が紙に書き取っていたデータなどもその対象です。現存のデータも十分価値があることはこれまでのプロジェクトで実証済みです。データサイエンティストが現場の人間に、現存するデータの“別の視点や使い方”を示してあげると、実感が湧いて協力的になったという話もよく聞きます」(新野氏)
今後、GEデジタルは産業ごとにインダストリアル・インターネットの事例を出していくことに注力するという。もちろん、日本企業の事例も出てくるようだ。新野氏は製造業の中でもサプライチェーンの分野で導入が進むとみている。技術的な親和性が高く、ビジネスに与えるインパクトが大きい分野であるためだ。
「2015年にIoTは大きく話題になりましたが、その実態はまだまだといったところでした。2016年はいよいよそれらが実プロジェクトとして動き出すとき。経営層の強い意志や、課題解決に向けての気概があれば、すぐに導入できるタイミングなのです」(新野氏)
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