仮想化やクラウドなど、企業システムの技術は日進月歩で進化しているが、デメリットもある。運用管理作業が複雑になってしまうことだ。複雑な作業を標準化し、自動化しようという動きもあるが、なかなか導入が進まないのが現状だ。そこには運用管理を取り巻く“七不思議”があるという。
仮想化によるサーバ集約や、クラウドの浸透など、企業システムを取り巻く技術は日に日に進歩している。それはコスト削減やビジネスのスピードアップといったメリットがある一方で、情シスには頭が痛いデメリットもある。運用管理作業の複雑化だ。
例えば、物理・仮想の混在環境、社外を含めた複数のクラウドサービスなどを併せて管理するとなると、仕事は増える一方。なのに、人員補充はできない――コストセンターという目で見られ、投資をされない悲哀を感じた人も少なくないのではないだろうか。
そこで出てきた考え方が、作業の手順・ノウハウの属人化をなくし自動化する「運用自動化」だ。少ない人手で多くの作業をこなせるようになるほか、人的ミスも防止できる。こうした効果を狙った運用自動化ツールは、これまでも複数のベンダーから提供されてきた。しかし、それらの製品の導入はなかなか進まないのが現状だ。
「運用自動化に興味を持つ企業が多い一方で、ほとんどのケースで成功していないのも事実。そこには、さまざまな理由が潜んでいるのです」
こう話すのは、日本ヒューレット・パッカードで運用管理ツールのプリセールス 兼 運用デザインエバンジェリストの中村憲仁さんだ。IT運用のプロセス(手順)を自動化する「ランブックオートメーション」の導入に長年携わり、競合他社も含めてさまざまケースを見聞きしたという中村さんに、運用自動化にまつわる“七不思議”を解説してもらった。
中村: 運用管理で“失敗したくない”という思いが強いと、自動化に対する警戒心が強くなる傾向にあります。興味はあるものの、自分からは積極的に動かないのが特徴です。リーダークラスの人に多い傾向がありますね。上申書までベンダーに手伝わせたのに、通らないとベンダーのせいにしてくるという話も聞いたことがあります。
――他社事例を紹介すると乗ってくるのでは?
中村: そうすると「他社は他社だから」といわれてしまう可能性が高いですね。ただ、他部署の成功経験を非常に気にする傾向があるので、うまく別部署で導入できれば話が進みやすくなるかもしれません。時間がかかってしまうのが難点ですが……。
導入の検討に時間がかかると、担当者が変わってしまうこともあります。PoC(Proof of Concept:新しい技術や概念が実現可能か、試作やデモンストレーションで確認すること)までやったのに、導入がほぼ決まったら担当者が変わって、始めからやり直し、なんてことも過去にはありました。
中村: ある意味、これが一番難しいかもしれません。自動化に興味はあるものの、人が作業することに対して美徳を持っているケースがあるのです。仕事のスタイルが崩れるのを嫌がる現場担当者は意外と多いですよ。「機械がやることが信用できない」と言われたこともあります。
――人為的ミスを減らせるのが自動化の利点なのに?
中村: そうですね。変化に対するストレスがそれだけ嫌なのだと思います。運用自動化は運用の変更ではなく、あくまで現状の自動化です。自動化しないと効率が下がり、残業時間も増えると思うのですが、そちらのストレスはあまり話に上がってこないのが不思議ですね。仕事を失うかもしれないという“不安”もあるのかもしれません。そもそも自動化は、より付加価値の高い作業に取り掛かれるようにするのが目的なのですが……。
中村: 過去のトラウマが運用自動化に対する拒絶反応につながっているケースもあります。ベンダーからできると言われたことが実はできなかったとか、自動化した結果、かえって工数が増えてしまった、というような、“だまされた経験”がある企業が多いです。これはベンダーにも問題があります。
ベンダーから、「運用自動化には“エージェント”が必要」と言われた、という企業と話したことがありますが、基本的にランブックオートメーションは、既存の作業を整理することが目的なので、新規に必要となるエージェントはありません。ここはしっかりと理解しておいた方がいいでしょう。
中村: 運用自動化ツールの導入を断る理由として「ベンダーのツールは機能が多すぎる」と言われることがあります。もっとシンプルな機能でいいと。値下げ交渉になる企業がある一方で、OSSでツールを自作する道を選ぶ企業もあります。しかしツールを自作した結果、結局のところ失敗してしまうケースをたくさん見てきました。
――それは、なぜですか?
中村: 自分たちで運用管理の作業を、全体最適の視点で俯瞰するのは想像以上に難しいものです。部分最適はできても、それでは最終的な運用コストは下がりません。あと、OSS自作で失敗しても、その責任を問われることが少ないようなのが不思議です。ツールを作るための人件費もとんでもないコストだと思うのですが……。
また、こういうケースに限って、「自社のノウハウを自動化できるわけがない」という話をされます。しかし、年間100社以上見てきた経験から言えば、その「自社のノウハウ」を基準に共通項目を洗い出せば標準化できるので、標準化できないような独自のシステム運用などないと言っても過言ではありません。
中村: 大きな企業になると、運用管理ツールを選定する部長クラスが現場のことを全く分かっていないというケースもあります。「運用管理は単純作業なのだから、気合いと根性で頑張れば何とかなる」と言われたときは驚きました。現場の人たちが運用管理にどれだけ時間を取られているかを知らない。運用よりも別システムの開発への投資意欲が高いのも特徴です。
――気合いと根性とは……なんか体育会のノリですね。
中村: 理由を聞くと「自分たちはそう言われて育ってきた」と言うんです。これでは自動化は進みません。他社の人から聞いた話ですが、運用を子会社に任せているような企業で「子会社に仕事を与えているのに、それを奪うのか」と言われたことがあるとか……。
こういうケースでは、自動化に対する意欲が低い一方で、監視系のソリューションにはお金を払うことが多いのが不思議です。アクシデント時に報告がないのを恐れているのだとは思いますが、作業が複雑になれば、それだけ人為的ミスも起こりやすくなります。それも大きな問題のはずなのですけどね。
中村: 自動化、と言うと何でも自動でやってくれると“勘違い”したまま問い合わせてくる担当者もいます。例えば障害発生時に自動で問題を特定してくれたり、自動で解決してくれたり、と今までできなかったことができるようになる――何か人工知能とかロボットのようなイメージを抱いているわけです。
ランブックオートメーションは、今できている行為(機械化できること)を自動化するツールです。それを伝えると大抵がっかりされることもありますが、これをきっかけに運用自動化を真剣に考え始める企業もいるので、それは一歩前進と言えますね。こういうケースもありますし、自動化の前に必要な作業など、さまざまなアドバイスもできますので、まずは専門家であるわれわれに気軽に相談して欲しいですね。
中村: 今まで挙げたような障害を乗り越え、ようやく自動化ツールの導入が決まる段になっても、その最終局面で“社内政治”的な要素が入って白紙になることもあります。いきなり競合比較を再度し始めたり、システム運用と関係ない部署の役員が特定のベンダーとつながっていて、話がひっくり返ったり。
われわれとしても悔しいのですが、一番悔しがっているのは、現場の担当者たち。最後まで何が起こるか分からないのが、運用自動化の世界なのです。
さまざまな運用自動化の失敗例があるものの、もちろん、運用自動化で成功している企業もあるという。そのポイントとして、中村さんは次の3つを挙げた。
また、失敗例に多い共通点として“過去の経験を基にしていることが多い”。時代やITのトレンドに合わせて、運用管理の形も変えていくべきだと中村さんは強調する。
「運用自動化に興味を持つ企業は増え続けています。議論の中で痛いところを突かれ、さまざまな反論をする様子を見ると、現場もリーダーも葛藤している部分があるのだな、と思います。しかし、時代が変わり、技術やセキュリティも進化しているのに、運用管理だけが変わらなくていいはずがありません。
ビッグデータ分析などを見ても、分析する人手が足りない問題を機械化や自動化で解消しています。人がネックになるという点では、運用管理でも同じことがいえるはず。自動化をうまく使わなければ、運用全体の最適化はできません。“システムのサイロ化”という言葉がありますが、運用管理もサイロ化してしまっているのが現状でしょう。薄く広く、運用全体をデザインできる人間、いわば“フルスタックエンジニア”のような存在が必要とされているのです」(中村さん)
運用自動化というのは、タスクの自動化のみが目的ではない。その先には、プロセス全体の最適化や、保守から価値を生み出す運用管理へと変化する可能性を秘めている。そのためには“運用をデザインする”という考え方が必要なのだ。
「社内で1人でもいいから運用自動化にチャレンジしたいという人が出てくれば、生まれ変わるチャンスです。自らの仕事を見直すというのは、内部にいる人間だけで議論していてもなかなか進みません。そのために私たちのようなコンサルタントがいるのです。運用自動化の必要性を理解し、相談していただければとことんサポートします。変化を恐れず、一緒に新たな時代を作っていきましょう」(中村さん)
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