第9回 データ管理でみると意外に違う米国と欧州データで戦う企業のためのIT処方箋(2/2 ページ)

» 2016年06月07日 08時00分 公開
[森本雅之ITmedia]
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欧州(西欧や北欧)のITアプローチ

 欧州と、ひとくくりにされがちですが、概ね企業の人事・組織制度は米国のような職務ベースの形態が多く、「クラウドの利用方法を除いて」、米国とほぼ同様です。

 「クラウドの利用方法を除いて」と前置きしたのは、各国とも共通して情報セキュリティへの意識が非常に高い、という特徴が挙げられるからです。ドイツ、フランスを中心に個人情報の保護やデータの取り扱いに関して非常に厳しいルールが定められ、地理的に近くとも他国のデータセンターやパブリッククラウドにデータを預託することに対しては、かなり慎重にリスクを判断する傾向にあります。特定のベンダー、特に大企業への依存を減らしたいという傾向がフランスを中心にみられることもあり、オープンソースでの自社主導開発や基盤整備を選択するケースも増えています。

 リスクを判断するにあたり、データ管理や情報システムの運用に強い統制が必要であるとの考えから、中堅以上の企業ではきちんとした権限と責任を合わせ持つCIOを設置しているのが一般的です。また、データこそ法令などの関係で国外に持ち出せなくとも、事業展開としては多国間や欧州圏全域に跨る企業がほとんどであり、CIOには国ごとで異なる法令や慣習などに精通することが求められ、米国企業のCIOより広範な知識が不可欠とされています。CIOサミットなど、CIO向けに特化した情報提供やCIO同士での情報交換の場が米国に次いで多いのも、このような背景によるものでしょう。

 一方、各国のデータセンター事業は非常に好調です。それぞれの国に3社から5社程度の大手データセンター企業があり、日々競争を繰り広げています。運用の効率化、という面では米国と同様にアウトソーシングを利用して効率化を進めており、ITインフラについても「所有より利用」といった考え方が主流になってきていました。

 ただし、クラウドにデータを預けることへの警戒感から、SaaSやPaaSの利用の伸びは米国より鈍く、依然としてIaaSやホスティングサービス上に自社システムを構築する傾向にあります。その結果、業務部門側のシャドーITの利用という課題は、米国ほど大きな懸念にはなっていません。データセンターでは、公共サービスから企業の業務まで幅広いサービスレベルに対応することが求められるため、ソフトウェア定義インフラストラクチャによる柔軟性が注目され、具体的な導入が進んでいます。

 また、日本より進んでいる点がDR(災害対策)です。日本とは違って地震など広域災害への対策は重視されておらず、河川の水害、テロによる建物破壊・入室禁止などへの対策として、数十キロ程度離れたデータセンター間を結んでITインフラを実装することが多くあります。

 一般的に複数のデータセンターを利用するDR構成の場合、従来はデータを遠隔側に転送しておき、万一の際に利用するという運用になります。それに対して欧州の環境では、データセンター間の距離が近いことから、IT先進国のドイツを中心にミッションクリティカルな業務システム基盤向けとして「ストレッチクラスタ」や「メトロクラスタ」と呼ばれる形態がとられます。これは、データセンター間でITシステムをクラスタ化し、その上でサービスを実現するという構成です。ネットワークとしては数ミリ秒程度の遅延とWANとはいえ少し遅いLANのように利用できるという技術的な背景や対テロへの警戒などもあり、この分野では米国よりも一歩先んじている状況です。

従来の複数データセンター利用方法とストレッチクラスタ構成の違い

 欧米に対してアジアは、IT分野としては後発ながら非常に速いスピードで先進的な取り組みをしています。日本企業、特に多くの製造業が中国やシンガポール、マレーシアなどの東南アジア諸国に工場などを展開しているため、これらの国々の状況も無視できません。次回は、こうしたアジア各国の状況と、日本のアプローチについて紹介したいと思います。

執筆者紹介・森本雅之

ファルコンストア・ジャパン株式会社 代表取締役社長。2005年入社。シニアストレージアーキテクトおよびテクニカル・ディレクターを経て2014年5月より現職。15年以上に渡って災害対策(DR)や事業継続計画(BCP)をテーマに、データ保護の観点からストレージを中心としたシステム設計や導入、サービス企画に携わる。現在はSoftware-Defined Storage技術によるシステム環境の近代化をテーマに活動中。


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