「もう、メールには戻れない」 イシンホーム、コミュニケーション改革の成果は(2/2 ページ)

» 2016年06月28日 07時00分 公開
[柴田克己ITmedia]
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 「導入前にはLINEに多数のグループを作って運用するという方法も試したのですが、規模が大きくなるとグループの管理方法やセキュリティ上の問題が出てきました。directは使い勝手はLINEと遜色なく、組織管理が柔軟にできたり、セキュリティに配慮されていたりといった部分が優れていました」(山本氏)

 イシングループにとって特にメリットが大きかったのは、柔軟な組織設定ができる点と、容易に画像や映像のリアルタイム共有ができる点だった。これらは、一般的なメールやグループウェアで実現しようとすると難しい要素だったと山本氏は振り返る。

 組織設定は、directの特長的な機能の1つだ。管理者が社外のメンバーを招待することで新たな組織を作成でき、他の企業との共同プロジェクトを多数展開するような場合に便利だという。

 同社では、自社の社員やフランチャイズ加盟工務店の社員が属する「組織」を複数作成しており、「新しいプロジェクトを始める際には、一部の人間だけでなく全部の関係者をdirectの組織に入れる」ことが、原則になっているという。

Photo 社内外のメンバーと情報共有をする機会が多いイシンホームのニーズに合った組織設定が可能だった

 画像と映像のリアルタイム共有も、同社にとって必須の機能だった。イシングループは、映像が情報共有の重要な要素になっているからだ。

 「イシングループには、“成功経験の喜びを共有する”という理念があります。成功経験を効果的に伝えるためには、実際の成功者や経験者が、直接、本人の言葉で語ることが重要なのです」(同)

 そのため、同社は早くから社内に映像製作の部門を設け、ビデオやDVDの製作も行ってきたという。近年ではWeb会議システムを使い、ネットを通じた映像配信にも取り組んできた。

 現在、社員や加盟工務店社員の多くは、スマートフォンを利用している。スマートフォンのカメラで撮影した画像や映像は、メールに比べて容易に共有することができるため、報告や情報共有で使うケースが増えているという。

 山本氏は「実際に利用していくなかで、画像や映像をどのように送れば、必要な情報が伝わりやすいかといったノウハウも共有されるようになってきた」と話す。現在では、社内のグループでやりとりされる情報の大半が画像、もしくは動画になっているという。

“脱メール”で1日あたり数時間単位の時短効果

 イシングループがチャットツールを採用したのは約1年半前のことだが、トップが活用に積極的だったこともあり、社内に浸透するのは早かったと山本氏。導入効果としては「連絡や報告にまつわる業務を、現場ですぐに終えられることによる効率化が大きい」という。

 「電話待ちやメール検索にかかる無駄が大幅に減っており、1日あたり数時間単位の時短効果があります」(山本氏)

 今後の課題は、社内だけではなく、フランチャイズ加盟工務店の全社員に対してチャットツールを使った情報共有を浸透させることだ。「さらに利用者が増えることで、できることも広がる」(同)と期待を寄せる。

 その1例が、チャットbotの活用による、ピンポイントの情報配信だ。directでは、ユーザー企業が独自のニーズに合わせた機能を開発できる「daab SDK」と呼ばれる開発環境が提供されている。イシンホーム住宅研究会では会員向けに、工務店経営のノウハウを配信するメールマガジンを発行しているが、そのメールマガジンの内容を、daab SDKを利用した「メルマガ配信bot」を通じて、direct上で配信するという取り組みを行っている。

 このメルマガ配信botは、配信内容、配信先のユーザーや組織、配信時間などを集中的に管理し、実行できる。ユーザーや組織に関する情報はdirectのものをそのまま利用できるため、会員の全てがdirectを利用している環境があれば、フランチャイズ各社のそれぞれの担当者に、職務内容に応じてカスタマイズしたメルマガを容易に配信できるようになるという。

運用ルールを確立し、メールをしのぐ浸透率に

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 自社に必要な機能を明確にイメージし、運用の中でチャットツールの効率的な利用法を模索し、利用の拡大に取り組むイシングループ。ツールの活用と並行して、運用ルールのコンセンサスも形成されてきており、既に社内でのコミュニケーションに関しては、メールをしのぐ利用率となっているという。「もし、今directがなくなったら、明日からどうやって仕事を進めればいいか困るレベル」(山本氏)にまで浸透しているそうだ。

 近年では、学生時代からスマホやチャットをメインのデジタルツールとして使いこなしてきた世代が社員として働く企業が増えている。また、中堅以上の社員であっても、もはや「PCのメールより、スマホでチャットやSNSを使っている時間のほうが長い」といったケースは少なくないはずだ。

 「より効率的なコミュニケーションや情報共有の環境から成果を出す」ためにはどうすればいいのか――。そうした問題意識を抱える企業に対し、同社の取り組みは1つの示唆を与えてくれるのではないだろうか。

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