加熱する国内クラウド市場、大手ベンダーの“次の一手”はWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2016年07月04日 13時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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「クラウドサービスがイノベーションを促進し、IT投資を呼び込む」

 ただ、オンプレミスで確固たる実績を築き上げてきたエンタープライズITベンダーにおけるクラウドサービスの売り上げ比率は、まだ小さい。

 例えば、Oracleは2016年度(2016年5月期)で8%、SAPは2015年度(2015年12月期)で11%といった具合だ。SAPの内容については、2016年2月8日掲載の本コラム「クラウド進展でソフトベンダーの業績はどうなるか」で解説しているので参照していただきたい。

 では、日本法人はどうか。上場会社として業績内容を明らかにしている日本オラクルのクラウドサービスの売り上げ比率を見ると、まだ3%程度といった段階だ。

 気になるのは、この比率が上昇していけば、オンプレミスとは売り上げの計上の仕方が異なるので、業績が一時的に落ち込むと予想されることだ。この現象を「死の谷」と呼ぶ経営トップもいる。

 実際、かねて好業績を上げ続けてきたOracleの2016年度の全売上高は、前年度比3%減となった。その要因は為替変動もあるが、クラウド比率の上昇に伴う影響が出始めたと見る向きもある。とすると、日本オラクルも時間差で同じ現象が起きるのではないか。この点について、杉原氏に会見後、個別に聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。

 「これからは“所有するIT”ではなく“使用するIT”をお客さまに提供するのが当社の役目で、それを実践するクラウドサービスをどんどんお勧めしていきたい。そうすると一時的に業績が停滞するとの見方もあるが、そこはグローバルベンダーとして欧米での先行経験を生かすとともに、日本特有であるパートナー企業との協業の仕組みによって、共に売り上げを伸ばす方向へビジネスモデルを柔軟に展開していきたいと考えている」

Photo 「これからは“所有するIT”から“使用するIT”をお客さまに提供するのが当社の役目」と日本オラクルの杉原氏は説明した

 さらに、同氏はこう続けた。

 「クラウドサービスの売り上げがオンプレミスを上回るときはいつか来るかもしれないが、それに伴って日本の社会構造が大きく変わっていくはずだ。その過程において多くのイノベーションが起きる。これからの企業のIT投資は、そうしたイノベーションに対して行われるようになる。クラウドサービスの活用はそのきっかけになると確信している」

 こう話す杉原氏の頭には、「クラウドサービスがイノベーションを促進し、IT投資を呼び込む」という構図が出来上がっているようだ。そこには、オンプレミスで多くの顧客を持つエンタープライズITベンダーとして、自らがその推進役を果たすという強い意志を感じ取ることができた。この感覚は、SAPジャパンや富士通の会見でも感じ取れた。

 さて今週は、日本マイクロソフトや日本IBMが今後の事業戦略について会見を行い、クラウドサービスについての拡大策を打ち出すとみられる。また、富士通とOracleと日本オラクルがクラウド事業における戦略的協業を発表する予定だ。

 エンタープライズITベンダーのクラウドサービスに向けた動きがいよいよ本格的に活発になってきた印象を受ける。今後、国内クラウド市場はホットな戦いが繰り広げられそうだ。

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