第25回 32ビット環境に迫る「2038年問題」 時計がおかしくなると……古賀政純の「攻めのITのためのDocker塾」(2/3 ページ)

» 2016年07月13日 08時00分 公開

32ビットのコンピュータは使われているのか?

 「古い32ビットのOSなんて、2038年に使わないでしょう」と思われるかもしれません。しかし、実は日本だけでなく世界中のPC、医療現場における操作端末、デジタルサイネージ、レストランの自動精算機、工場内の電子機器、産業用機械の制御ソフトウェアなどでは、32ビットOSがまだ現役で動いています。

 例えば、2000年代初頭のWindows XPを導入した企業、医療機関、公共システムなどのアプリケーションは、Windows XPのPCで動くものの、Windows 7以上の64ビット環境には正式に対応していないということも少なくありません。これは日本に限った話ではなく、世界的にも同じ傾向です。サーバの世界ではなんと、1990年代初頭の32ビットUNIXアプリケーションが四半世紀経った今でも現役で稼働しているのです。筆者が所属するヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)も、お客様が1990年代のマシンを今でも使用していることから、保守部品を確保しつつ、問題切り分けのために当時のマシンをHPEの事業所に所有し、サポートを提供する業務がいまだに行われています。

 一方、先進的な技術をいち早く取り入れるLinuxの世界ではどうでしょうか。「いまどきLinuxで32ビットOSを使っている人がいるの?」と思われるかもしれませんが、実は2000年代中頃の社内Webシステム、アプリケーションサーバなどが今でもセキュリティパッチを更新しつつ、仮想化環境に移植され、32ビットOSで稼働しているところが数多く存在します。ビジネスアプリが稼働する中小企業の業務用のシステムでは、32ビット環境が利用されているところもありますし、製造業では、対象となる製品の設計用のアプリの都合により、32ビットのOS環境を利用せざるを得ない場合もあります。これらの特殊な事情は、いずれ64ビット環境に移行しなければなりませんが、2020年の東京オリンピックを4年後に控えた現在でも、なかなかそうはいかないのが現実なのです。

 逆に、ビッグデータ分野や科学技術計算に利用されるHPC(High Performance Computing)のシステムなどでは、最新のCPUやメモリなどを搭載したコンピュータに数年で入れ替える場合も少なくありません。そのため、次々と新しいシステムになるため、64ビット環境が利用されます。

Docker 32ビット環境は2016年現在でもさまざまな分野で利用されている

32ビット環境を捨てる決意と延命措置

 32ビット環境は、2038年1月19日3時14分7秒(協定世界時)になると時刻を正しく取り扱えませんので、利用を継続することはお勧めできません。ですので、32ビット環境をそれまでに捨てる決意が必要です。いつかは、OSとアプリを64ビット化にしないといけないわけですが、「2020年の東京オリンピックまででいいから、32ビット環境を延命したい」ということもあるでしょう。そこで登場するのが、ハイパーバイザー型の仮想化環境です。連載第14回でご紹介したP2V(Physical to Virutual)ツールを使った物理サーバから仮想マシンへの移行などを使えば、古い32ビット環境をKVM仮想化環境に移行し、延命させることができます。

32ビット環境の延命は、ハイパーバイザー型の仮想化基盤にゲストOSとして移行する方法が一般的である

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