第49回 「ワークスタイル変革」が失敗する日本企業のここがヘン!テクノロジーエバンジェリスト 小川大地の「ここが変だよ!? 日本のITインフラ」(2/2 ページ)

» 2016年09月09日 08時00分 公開
[小川大地ITmedia]
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「ワークスタイル変革」成功のキーマンはだれ?

 そう、これらのケースではプロジェクトの責任を全てIT部門に任せてしまっているんですね。人的な意味でも、予算化でも。

 ワークスタイル変革の施策に成功を収めるには、「経営陣も積極に関与して!」と、セミナーなどで広く耳にします。トップダウンは手法として正しいと思いますが、トップダウンの先がIT部門だとすれば、それは大きな成功は生まないでしょう。私の見てきた範囲で大きく成功しているのは、プロジェクトリーダーのポジションにIT部門ではなく、人事や総務担当者を置いたケース。これは「就業規則」や「人事考課」にまで影響するからです。

 「交通費の考え方は?」「家で仕事した場合の通信費は?」「働きぶりが見えづらくなくけどどのように評価するの?」など、いざ導入してみると社員からはさまざまな意見が挙がります。「通信費なんて自腹に決まってるだろ!」と思う方も多いかもしれませんが、実際に多くの企業がこの話題で揉めているのが事実です。

 例えば、対応システムの検討・SI選定にあたり、ベンダーはプレゼンや実演(デモ)を行います。たまに、この場へ一度も人事や総務の名刺を持った人間が現れないケースがありますが、正直これは危険信号です。相当の予算が動きますし、フロント系システムですから普通は誰でも一見しておきたいはず……。一度もプロジェクトの場に来ないということは、人事や総務はプロジェクトに関与していないということです。

 情シスの人間にとって、労務管理や法律は畑違い。人事無くして就業規則の話はできませんし、こういったケースは結果的に“施策”として失敗するケースが高いのです。

欧米はどうして実現できている?

 日本の話ばかりしてきましたが、欧米企業はどうしているでしょう?

 欧米企業はワークスタイル変革のことを「モビリティ」(Mobility)と言います。ムーブ(Move)・モバイル(Mobile)に派生する言葉です。仕事場を流動的に、というわけですね。日本で広く使われている言葉だと「テレワーク」を思い浮かべますが、テレワークというと、社の代わりに自宅で仕事する「在宅勤務」を思い浮かべたりしませんでしょうか?

 実はそれもココヘンの1つです。調べてみたところ、テレワーク本来の意味もそうですが、欧米的な理解は「会社に来なくても良い制度」。つまり、自宅に限らずカフェだろうが車の中だろうが、どこでも良いというものです。なんか、外勤の営業マンっぽいですよね。欧米のモビリティ施策は、日本の営業マン並みの裁量を全社的に採用することで成立しています。やはり、「就業規則」「人事考課」の下地が重要になるわけです。

ココヘン 外勤営業マン並みの裁量を全社展開するために必要なことは、人事や総務と洗い出してみましょう

 ワークスタイル変革は、人事ソリューション。その中の手法にITがあります。確かに、モバイルPCやタブレット・スマホなどの“デバイス”に目が行きますが、「デバイスなんて業務効率や生産性を上げるための単なるツールでしかない」と、いったん離れてみましょう。

 20年前、社員1人1人にPCを配られるようになったきっかけは「手書きよりPCを使った方が仕事も早く、質も正確だから」。仕事の主体は社員自身。PCはあくまで“道具”なんです。

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小川大地(おがわ・だいち)

日本ヒューレット・パッカード株式会社 仮想化・統合基盤テクノロジーエバンジェリスト。SANストレージの製品開発部門にてBCP/DRやデータベースバックアップに関するエンジニアリングを経験後、2006年より日本HPに入社。x86サーバー製品のプリセールス部門に所属し、WindowsやVMwareといったOS、仮想化レイヤーのソリューションアーキテクトを担当。2015年現在は、ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かし、お客様の仮想化基盤やインフラ統合の導入プロジェクトをシステムデザインの視点から支援している。Microsoft MVPを5年連続、VMware vExpertを4年連続で個人受賞。

カバーエリアは、x86サーバー、仮想化基盤、インフラ統合(コンバージドインフラストラクチャ)、データセンターインフラ設計、サイジング、災害対策、Windows基盤、デスクトップ仮想化、シンクライアントソリューション。

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