【新連載】コンピュータの進化はもう限界? ITの歴史で読み解くその真相「ムーアの法則」を超える新世代コンピューティングの鼓動(2/2 ページ)

» 2016年10月07日 08時00分 公開
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ITの歴史はハードウェア進化の歴史

 ここまで見てきたとおり、ITの歴史はハードウェアの進化の歴史といえます。ハードウェアが変わり、実現できることが増え、それを実現するようソフトウェアが向上し、潜在的にあったニーズが満たされていく――と、私はとらえています。

 例えば、アドレス空間が32ビットしかなければ、物理的に扱えるメモリ容量は4Gバイトまでに制限されてしまいます。もっと多くの情報をメモリ上に載せて処理したいと思っても、それ以上のメモリ容量を使うようなソフトウェアを作りようがありません。これが64ビット化されるとメモリ容量は飛躍的に増大します。外付けHDDなどの記憶装置がいくら高速化してもメインメモリの速度には遠く及びません。全てのデータ処理はメモリ上で行いたいものですが、ハードウェアがついてこなければできません。

 ネットワークやストレージに関しても同じことが言えるでしょう。10Mbpsもかつては驚くほど高速な通信でしたが、いまやギガビットの世界ですので、できることが違ってきます。家庭にも100Mbpsや1Gbpsの高速回線が引かれれば、人々はストリーミングでHD動画を見ることをためらわなくなります。ダイヤルアップ接続やINS接続をしていた頃のように、データ転送容量や接続時間を気にすることもなくなります。当時は従量課金でしたし、消費者はお金も気になるところでした。

 ストレージはどうでしょうか。外部接続のディスクアレイがオープンシステムに接続され始めた頃はSCSIという規格が主流でした。そこに、FibreChannelが登場して、速度は16倍に向上しました。今ではSASや10GbE、Infinibandで接続する機器も出てきています。またディスクそのものの容量も速度も増え、これからは容量と速度の面でSSDが主流になっていくでしょう。

 アクセス速度ディスクに格納できるデータ量の増大により、データベースなどで扱われるデータの量が増え、処理できる情報量が増えたことで、消費者やビジネスサイドが利用できる情報も増えて、それを利用したサービスやビジネスの意思決定システムなどが進化を遂げました。またサーバ機器の処理能力の向上と回線速度の向上は、「Software Defined Storage」という新しいストレージ形態の出現にもつながります。

 コンピュータシステムの歴史では、よく「分散と集中を繰り返す」といわれます。分散と集中は、地理的な配置について論じられるケースが多いですが、実はシステムのアプリケーションでも起こっていることです。この集中と分散にコンピュータのハードウェアの進化が大きく関わっていることは既にご理解いただけたかと思います。


 最後に潜在的なニーズの話をしましょう。Hewlett Packard Enterpriseの前身であるHewlett Packardは、かつて非常に先進的なアイデアを世に出していました。

 例えば、「e-services」は、当時流行したユビキタスやハンドヘルドコンピュータをワイヤレス接続させて、サービスを提供する構想です。HPは、これによって便利になっていく街の様子を「COOLTOWN」と呼び、4つのシナリオからなるビデオを作成していました。残念ながら当時のテクノロジーでは実現できませんでしたが、現在ではハンドヘルドに変わって通信機能もオンチップで構成したスマートフォンがあり、CPUやネットワークの進化に伴って実現されたクラウドがあります。今後、様々なデバイスのセンサ情報がネットワークを経由して利用されるIoTの時代がやってくることで、おそらく実現されるでしょう。

コンピューティング COOLTOWNのビデオ。自動車が故障すると、運転者に知らせ、最寄りのガソリンスタンドに誘導して迎えのタクシーも自動で呼んでくれるというストーリーです

 また「Utility Data Center」というものもありました。これはベアメタルのリソースを利用した今でいうプライベートクラウドを構築する物でしたが、例えば、ハイパーコンバージドシステムやシステム統合運用管理基盤、それにOpenStackなどを利用することで、より容易に実現できるようになりました。

 IoTの時代は、そこから膨大な情報が得られます。この情報を有効に活用すると、どのようなことができるようになるのでしょうか。次回は、そのような新しいニーズについて触れていきたいと思います。

三宅祐典(みやけ ゆうすけ)

日本ヒューレット・パッカード株式会社の「The Machineエバンジェリスト」。Hewlett Packard Enterprise(HPE)の中央研究所「Hewlett Packard Labs」が認定するエバンジェリストであるとともに、普段はミッションクリティカルなサーバ製品を担当するプリセールスSEとして導入提案や技術支援を行う。ベンチマークセンターのエンジニアとしてHP-UXとOracleデータベースの拡販支援やサイジングを担当後、プリセールスエンジニアとして主に流通業のお客様やパートナー様の提案支援を経験し、現在に至る。

趣味はスキー、ダイビングといった道具でカバーできるスポーツ。三宅氏のブログはこちら。


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