国際IT資産管理者協会(IAITAM)の日本支部は9月16日、IT資産管理をテーマとした年次カンファレンス「IAITAM ACE JAPAN 2016」を開催。その基調講演で、日本たばこ産業(JT)の鹿嶋康由氏が自社の事例を披露した。
日本たばこ産業(JT)がIT資産管理に着手したのは90年代後半のこと。当初の管理対象は主にクライアントPCとPCで利用するソフトだった。以来、デバイスの多様化などの変化、人手による管理プロセスやツールの拡充を通じ、管理対象をシステムなどにも拡大させてきた。
しかし、2007年ごろから進めた仮想化やクラウドの導入で、ITシステムとソフトウェアの管理が極めて困難な状況に陥ってしまった。
鹿嶋氏は、「われわれはグローバルに事業を展開しており、競争力強化に向けた迅速なIT配備のために、クラウドや仮想化を導入しました。しかしその結果、システムの増殖に加えてモバイル利用も広がり、従来の手作業では管理が追い付かなくなってしまったのです」と当時を振り返る。
問題の根本は、仮想化の拡大やデバイスの多様化により、既存の管理の枠組みとシステムに不整合が生じた点にある。事実、エンドポイントとデータセンター(DC)の管理におけるプロセスと情報が分断され、全社的に現状を把握しにくい状態にあったという。ただ、こうした状況下でも、サイバー攻撃への対策として、ソフトウェアのバージョン情報などの、より迅速な可視化も求められていた。
そして2016年。あえて監査部にIT資産リスクの観点を示唆し、社内監査を促して、「IT資産管理の効率化と自動化が必要」という課題を明確にし、IT資産管理プロセスの抜本的な見直しに着手した。「当社は過去に大手ERPベンダーから、監査の実施連絡を受けたことがあります。その経験を通じてコンプライアンスの観点からも、IT資産の見える化に早急に取り組む必要があると感じました」(鹿嶋氏)
JTがまず行ったのが、既存IT資産管理プロセスのFit&Gap分析だ。そこで明らかとなったのは、各システムの継続的な機能拡張などにより、統一的な管理が実施されていないことだった。
クラウドやマルチデバイス活用により、IT環境がさらに複雑になる中で、継続性のあるIT資産管理プロセスの実現には、「運用」と「基盤」の両者を巻き込む改革が不可欠だと判断したそうだ。具体的に取り組みをどう進めるべきかと考えたJTが着目したのが、IAITAMのベストプラクティス「IBPL」だった。
「ソフトウェア資産管理は、得てして現場の職人技に頼りがちです。しかし、その手法ではハードウェアとアプリが増加する中で、いつか限界を迎えてしまいます。そこで大切になるのが、次世代に備えて組織的にプロセスを回す体制を確立すること。その点で極めて優れていると判断しました」(鹿嶋氏)
その第一歩として鹿嶋氏は2016年8月、IT部やサーバーライセンス管理チーム、サービスデスク、セキュリティチーム、調達など、ソフトウェア管理に関わるあらゆる部署をまたいだプロジェクトチームを結成。現在、同チームの下で、同社にとって望ましいIT資産ライフサイクル管理の見極めと、管理ツールの利用環境の整備を進めているところだという。
SAMツールには導入実績の豊富さや調査会社による評価を踏まえ、フレクセラ・ソフトウェア製品を採用した。事前の効果検証で、手作業で行っていたプロセスを自動化するだけで、3〜4億円のコスト削減が見込めたことも判断を後押ししたそうだ。「資産管理に必要なライセンスやPC、サーバ、ユーザー情報など、あらゆるデータをクラウド上のフレクセラ製品が収集します。それらを突き合わせることで、資産の見える化を可能にするわけです」(鹿嶋氏)
JTでは2017年1月から、ソフトウェア利用状況の可視化を皮切りに、セキュリティ強化とコンプライアンス向上に向けた全体最適化の取り組みが本格化する。
日本たばこ産業のIT部で次長を務める本川修氏は、「社内のソフトウェアの可視化を通じて、一見、非常に複雑に見えるシステムもシンプルに捉えることが可能になります。新技術の登場によってシステムの複雑さが増す中、管理効率化の点でこれは大きなメリットです。加えてワークフローとの連携により、棚卸し業務の自動化やソフトウェアの自動配置、調達最適化も数年内に実現する計画です。そこで目指すのは、社内のソフトウェアのニーズに対する、よりプロアクティブな対応、ひいてはJTブランドのさらなる向上にほかなりません」と強調した。
今回のプロジェクトを通じ、2020年には世界トップクラスのIT部門になると目標に掲げるJT。優れたIT資産管理の実例として、参考になる部分は多いはずだ。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2016年12月10日