“インフラ仕事”の楽しさ、もっと広く伝えたい アドウェイズ伊藤さんの挑戦情シス“ニュータイプ“の時代(1/2 ページ)

「インフラのお守り」と聞くと、つらそうなイメージがつきまとうが、アドウェイズのインフラエンジニア、伊藤さんの手に掛かるとそれがワクワクする挑戦に変わる。面倒な仕事が楽しくなるのは一体、なぜなのか。伊藤さんの取り組みに密着した。

» 2016年10月12日 07時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]
Photo アドウェイズのインフラエンジニア、伊藤正之さん

 「ChatOps」という用語が、ITインフラの構築や運用に関わる人々の間でちょっとしたブームになっている。「Chat(チャット)」と「Ops(運用)」を組み合わせた造語で、その名の通りチャットの仕組みを使ってシステム運用の作業を行ってしまおうというものだ。

 ChatOpsでどんなことができるのか。例えば、今、世界中の開発者の間で広く普及しているチャットツール「Slack」のBotを使い、システム運用管理ツールの機能を呼び出したり、あるいはサーバやストレージ、ネットワーク機器のAPIをたたいて、チャットのタイムラインからシステムや機器の状態をチェックしたり、設定を施したりするのはその一例だ。

 ネット広告のプラットフォームサービスを提供するアドウェイズでインフラエンジニアを務める伊藤正之さんも、今このChatOpsにはまっている1人だ。日々、自社のサービスや社内システムのインフラ設計や構築、保守に奔走しながら、こうした新たな技術やトレンドも積極的に仕事に取り入れる、まさに“ニュータイプの情シス”を地で行くようなエンジニアだ。

 「情シスのインフラ担当」と聞くと、枯れた技術で構成したシステムを堅実に安定稼働させることを是とするような、どちらかといえば保守的なイメージが強いかもしれない。しかし、伊藤さんの仕事ぶりは正反対。先進的な技術をどんどん取り入れて、アグレッシブに仕事に取り組む「イマドキのエンジニア」という印象を受ける。

 「面倒な仕事にこそ、ブレークスルーがある」という姿勢は、どうやってはぐくまれたのか。伊藤さんに聞いた。

会社を渡り歩き、特定の領域に偏らないインフラの知識を吸収

 伊藤さんも、キャリアのはじめから「イマドキのエンジニア」だったわけではない。中途採用でアドウェイズに入社するまでは、金融機関や通信キャリア、大手製造業といった“お堅い”企業の情シスの現場で、堅実な仕事に従事していたそうだ。

 「さまざまな企業の現場に赴き、インフラ関連の仕事に携わっていました。一般的なインフラエンジニアは『サーバ担当』『データベース担当』『ネットワーク担当』など、専門領域が分かれることが多いのですが、さまざまな現場を経験できたおかげで、特定の領域に偏らない幅広いスキルを習得できました」

 伊藤さんの肩書は「サーバエンジニア」でも「ネットワークエンジニア」でもない。サーバもストレージもネットワーク機器も、場合によっては電源や電話の設備までもカバーする、「インフラならなんでもござれ」のエンジニアなのだ。アドウェイズでも、今は主に顧客向けサービスのインフラを担当しているが、つい最近までは社内システムや電力・電話設備の保守・運用までまとめて担当していたという。

 「特定の分野にこだわりがあるわけではなく、とにかく周囲に求められることや、自分でやりたいと思ったことにはどんどん手を付けていきたいんです」

全社サーバインフラの仮想化プロジェクトに着手

 そんな伊藤さんが、中途採用でアドウェイズへの入社を決めた理由は、「さまざまな分野の仕事にチャレンジできる」という点だった。しかし、一番の決め手となったのは、社内で働くエンジニアが実に生き生きと元気に仕事に取り組んでいることだったという。

 「入社前、たまたまアドウェイズのエンジニアと話す機会があったのですが、『将来こんなことをしたい、あんなことをしたい』と熱く夢を語っていて、『こんな人たちと一緒に働きたいな』と思ったんです。ネット広告業界は技術革新のスピードがとても速く、若くて元気な人たちが集まっていましたから、自分もそうした環境に身を置いて切磋琢磨したいと考えたのです」

 こうして2012年3月、伊藤さんはインフラエンジニアとしてアドウェイズに入社。自由闊達な社風の中、水を得た魚のごとく「攻めの情シス」の姿勢を打ち出していった。当時、同社のインフラは全て物理サーバで構成されていたが、伊藤さんはサーバ仮想化技術が持つメリットに目を付け、まずは社内の開発環境の仮想化に着手。そこで実績を上げると、今度はとある顧客向けサービスのインフラ仮想化を手掛けた。

 このとき、伊藤さんは入社してまだ半年足らず。しかし頭の中では早くも、全社インフラの全面仮想化のプランを思い描いていたという。同社のサービス品質や効率を向上させ、激化する市場競争を勝ち抜くには「仮想化しかない!」という確信があったからだ。

 「市場競争を勝ち抜くためには、新たなサービスをどんどん投入していく必要があります。一方で、物理サーバによるインフラの構築や拡張には、サーバの調達から構築、設定まで、長い場合は1カ月もの時間がかかることもあります。こうしたスピード感では、とてもビジネスの成長スピードについていけません。ITがビジネス成長の足かせにならないよう、仮想化の導入は必須だと考えていました」

 ネット広告プラットフォームは、広告を掲載したWebページの閲覧数が何かのきっかけで急増すると、それに伴ってトラフィックが突発的に増大することが多々ある。広告主や媒体、そしてエンドユーザーに十分な品質のサービスを提供するには、こうしたトラフィックの急激な増減に柔軟に対応しつつ、システム全体の可用性にも万全を期す必要がある。この要件を確実に、効率よく満たす上でも、やはりサーバの仮想化が最適解だと伊藤さんは考えた。

 「仮想化基盤であれば、突発的なトラフィック増に対して、仮想サーバを増設することですぐに対応できます。事実、仮想化を先行導入したあるサービスは、そうやってトラフィックの急増をしのぐことができました。それに、物理サーバはトラフィック量が少ないときは、CPUやメモリのリソースを余らせてしまいます。サーバを仮想化すればそうした無駄はなくなり、物理リソースの利用効率を最大化して投資対効果を大幅に改善できると考えました」

 こうして伊藤さんの主導の下、アドウェイズは全社レベルでのサーバインフラの仮想化を段階的に進め、現在ではほぼ全てのサーバがVMware vSphereによる仮想化環境の上で稼働している。

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