フルスクラッチからパッケージ活用へ 人事ローテーションも断行したサッポログループマネジメントのIT改革(1/2 ページ)

サッポログループマネジメント 取締役 グループIT統括部長 石原 睦氏が、国際的なM&Aを進めるなかでのIT組織の改革やシステム統合について、サッポログループの取り組みを解説した。

» 2016年10月26日 14時30分 公開
[大類賢一ITmedia]

国際展開を推進する中、顕在化したIT革命の必要性

 2016年に創業140年を迎えるサッポログループは、近年、海外企業のM&Aを積極的に推進し、グローバル経営を加速してきた。2011年にベトナムビール工場を竣工し、ポッカコーポレーションを子会社化、2012年にはアメリカ最大手PBチルド飲料メーカーのM&Aを行なうなど、日本だけでなく、アジア、北米を中心に市場を拡大している。

サッポログループマネジメント 取締役 グループIT統括部長 石原睦氏 サッポログループマネジメント 取締役 グループIT統括部長 石原睦氏

 2007年に発表(最終年度は2016年)したサッポログループ新経営構想では「高付加価値商品・サービスの創造」「戦略的提携の実施」「国際展開の推進」「グループシナジーの拡大」の4項目を掲げている。海外売上高の比率も、2006年の1.8%から2016年には23.5%を占めるまで高まった。

 NTT Communications Forum 2016で講演したサッポログループマネジメント 取締役 グループIT統括部長 石原睦氏は「国際展開が順調に拡大するなかで顕在化したのが、IT革命の必要性だった。M&Aのたびに、ビジネス部門、IT部門が混乱をきたすようなことが起こるのは、ITガバナンスの欠如があったからだ」と問題点を指摘し、「せっかく乗った成長軌道から脱落してしまうのではないかという危機感を抱えていた」と語る。

サイロ化が進むITシステム ベンダー丸投げ体質では解決しない

 石原氏が大きな課題として挙げたのは「標準化されていないシステム群」「ベンダー丸投げ体質のIT組織」「ベクトルが定まらないIT部門の組織」の3項目である。

サッポログループマネジメント サッポログループの課題は大きく3点

 ITシステムは、基幹システムを個別に組み上げてきた結果、「次の打ち手を出しにくい状況にあった」と石原氏はいう。サーバOSやデータベースも異なるシステムが用いられ、サイロ化が進んでいた。データセンターやネットワークのインフラも各社に分散して、グローバル拠点とのネットワーク接続もなかった。

 またベンダーにフルアウトソーシングしてシステム構築をしてきたため、IT部門の技術やスキルの空洞化が起こっていた。グループ内にIT組織が複数分散しており、それぞれに価値観が異なるため、会議をしても方向性が定めにくくなる。それが、これからの展開を考えたときの大きな足かせとなっていた。

 改善に向けて大きく舵を切ったのは2014年。最初に取り組んだのは、課題がもっとも顕在化していた営業システムの刷新だった。過去16年に渡り使用をしてきた営業システムは、建て増しを繰り返してきた。その結果、20ものシステムが乱立し、データもそれぞれに格納されていた。そのためメンテナンスの負荷が増大していたのである。手間がかかるわりに、事業への貢献度も高くはなかった。「我々が一番見たいと思っていた顧客軸での分析を、やろうと思ってもデータが不十分だった」(石原氏)という状態だった。

 そこで、グループシステムの将来像を策定し、グループ顧客情報の統合をIT改革の旗印として捉え、刷新に取り組んだのである。サッポログループのシステムは従来フルスクラッチで設計してきたが、パッケージソフト活用へと切り替えた。

IT部門とビジネス部門の人事ローテーションで、一体感を創る

 営業システム刷新と同時に取り組んだのが、「IT部門とビジネス部門の一体感」の創出だ。そのために実施したのが「営業部門とIT部門の積極的な人事ローテーション」だった。人事ローテーションとは、両部門のキーメンバーを互いに交換し、交流を図ること。その目的は、IT部門に、ビジネス視点の育成と実務へのIT活用の高度化を図ることである。

サッポログループマネジメント IT部門とビジネス部門が一体感を持てるような取り組みを実施

 人事ローテーションだけではない。システムに対する意識改革も進めた。石原氏は「すべてのシステムにオーナー制度を敷いた。営業システムは、実務を行う営業部門のものであることを明確にし、オーナー部門がメインでIT部門が支えるという体制を構築した」という。

 システム開発におけるIT部門の役割も変えた。ベンダー丸投げ時代、IT部門は下流工程に力を入れていたが、改革後は上流工程へシフト。下流工程はクラウドサービスやアウトソーシングを活用して、IT部門は設計の上流工程へ注力できる体制に変えた。

 またIT部門が考えるシステムは理想像を追いかける傾向が強かった点を反省。現実的な落とし所を目指すように方針転換した。この落とし所を見付けるには、キーメンバーの人事ローテーションが役立っていた。利用する現場であるビジネス部門のメンバーが参加することで、現実的な着地点が見いだせたという。

 開発手法もウォーターフォール型からアジャイル型アプローチへと変えた。システム開発は、スモールスタートで行ない、改善を反復しながら、段階的にリリースする。これによって、システムの将来像を作り上げる時間の短縮を図った。

 これらの改革により、約20あった営業システムを1つに統合でき、300万件の顧客情報の一元的管理が可能になった。石原氏は「フルスクラッチでシステム設計してきた当社が、パッケージソフトを使えるのかという懸念もあったが、切り替えができた。悪いスパイラルを抜けだして、いい流れができたのではないかと手応えを感じた」と振り返る。

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