第34回 IoTセキュリティが日本の国家戦略の要になる理由日本型セキュリティの現実と理想(3/3 ページ)

» 2016年10月27日 08時00分 公開
[武田一城ITmedia]
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古くて新しいIoT

 IoTは、これまで制御系システム連携や「M2M」(Machine to Machine)などという名称で古くから存在し、それぞれ異なる業界、異なる文化の中で発展した経緯がある。その延長線上にERPやSCMなどのITと融合したIoTが生まれつつある。現時点で「これを見ればIoTの全てが分かる」という便利な資料はなく、それらのすべてを体系的に理解し、説明できる人もいないだろう。あまりにも広くて深い産業構造や世の中全体のこと、さらにはITの全てに精通することなど、至難の業であるからだ。

 高度に情報化された現代社会では、専門分野に細分化した技術とさまざまな業務知識の集約による産業構造ができ上がっている。IoTの時代はまだ始まったばかりで、その可能性が将来どこまで発展するかは、まだ誰も想像できない状況だ。IoTとは、業種・業界の異なる人々と企業文化なども含めて、それらがインターネットに接続する「異文化コミュニケーション」により成立する概念のようなもので、それが今後、思いもよらない化学反応とそれによる成果を生み出していくはずだ。

 しかし、さまざまなモノと情報が融合したIoTの完成形は、一朝一夕ではできない。IoT活用を皆が理解し、輝かしい未来を実現するためには、まだまだ時間をかけてすり合せを続けなくてはならないだろう。

IoTセキュリティが国家戦略の要になる理由

 そのため、本格的なIoT時代と呼べるようになるには、もう少々時間がかかるだろう。しかし、少子高齢化が急速に進んで人口が減少していく日本の社会にとって、IoTを利用した高度に効率化され自動化された社会構造への変革は待ったなしの状況だ。だからこそ、世界の中で競争力を保っていくために、日本政府はIoTの推進に全力を傾けることを決めたのだろう。

 その実現には、(プライバシーとセーフティを含む)強固なセキュリティ対策が必須となる。それを怠れば、「いつ情報が悪用されるか分からない」と皆が疑心暗鬼になってしまい、活用によって役立つはずの情報を収集すること自体が社会で許されなくなりかねない。

 つまり、国家戦略としてIoTを活用・推進するためには、それらと一体関係にある強固なIoTセキュリティ対策が欠かせず、要になるというわけだ。IoTでモノが持つさまざまな情報を活用するなら、必ずその分だけのセキュリティ対策を施さなくてはならない。IoT流れはもはや止められない大きなものとなっているだけに、利便性の反作用と生じるリスクを低減させるためのセキュリティが必要である。

 IoTは非常に広範囲であるにも関わらず、底が全く見えないほど深い。これまで4回連続でIoTとセキュリティを述べてきたが、それでもまだ言い尽くせない。IoTはまだ黎明期にあり、そもそもその様態が定まっていないからだ。それでも今後はますまず活用が進み、そして残念ながらIoTにまつわる事件や事故も相当数発生することだろう。しかし、このハードルは必ず越えていかなければならない。

 日本は、史上類を見ないレベルの超高齢化社会と人口減少の時代に突入する。そして、すでに郊外などでは、限界集落と言われるエリアが現状でもいくつも取り沙汰されている。しかし、もしこの課題を解決できずIoTを活用できなければ、それがさらに進んでしまうだろう。限界集落ならぬ限界国家という事態は、どうしても避けなければならない。

武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社日立ソリューションズ

1974年生まれ。セキュリティ分野を中心にマーケティングや事業立上げ、戦略立案などを担当。セキュリティの他にも学校ICTや内部不正など様々な分野で執筆や寄稿、講演を精力的に行っている。特定非営利活動法人「日本PostgreSQLユーザ会」理事。日本ネットワークセキュリティ協会のワーキンググループや情報処理推進機構の委員会活動、各種シンポジウムや研究会、勉強会などでの講演も勢力的に実施している。

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