パブリッククラウドの運営事業者が使用している電力を合算すると、既に日本国民が消費している電力使用量をしのぐ量になっていると言われます。ちなみに、国別の電力使用量のトップは中国、2位は米国で、この2カ国が突出して多く消費しています。その後に日本やロシア、インドが続いています。これらの消費量の伸び率が多いのは中国、インド、そしてデータセンターなのです。
データセンターの全電力消費量は2015年の段階で全世界の2%程度でしたが、2020年には30%になると予想されています。つまり、今の形のコンピュータを使用し続ければ、コンピュータの数はどんどん増え、その消費電力も増えるということです。はたしてそれだけの電力を果たして生成できるのかという根源的な懸念はありますが、企業や研究機関にとってより大きな問題は、消費電力が増えればそれだけ電気使用料金が増えていく点です。せっかく新しいビジネスやサービス、あるいはサービス品質の向上やコスト効率の改善のために、より多くのデータを取り入れて新しい洞察を得ようとしても、それを進めれば進めるほどコストがかさんでいくという図式ができ上がるわけです。
いったいコンピュータは、どこに大量の電気を使用しているのでしょうか。上の図2は現在のコンピュータの構造を簡略化したものです。この構造は最初の商用のコンピュータが発売されてから60年以上、ほとんど変わっていません。
図の左側にあるのはCPUです。そこから銅線を経由して、CPUのすぐ近くにDRAMで構成されたメインメモリがあります。また別の銅線で結ばれた先には、ディスクやネットワーク上のリソースで構成されたストレージがあります。
時代によってメモリを含むI/Oが外部の別のチップで実現されていたことや、外部記憶装置が紙などもっと原始的な媒体だったこともありましたが、概ねCPUとメモリ/ストレージで階層化された記憶領域があり、それを銅線が結んでいるという構図に変わりはありません。DRAMで構成されるメモリは電気が失われるとデータを失います。容量単価はそれほど安くはありません。この2点から外部のストレージが必要なのです。
また、一般的にストレージはSSDで高速になったとはいえCPUやメインメモリの動作速度と比べると圧倒的に低速です。このため、コンピュータで動作するOSやアプリケーションは速度差があることを前提として設計されており、メインメモリとストレージの間では頻繁にデータの移動が行われています。メインメモリにデータを保持するには電気が必要で、さらにデータの移動は銅線上を流れる電子を介して行われるので、ここにも電気が必要になります。もちろん、CPUの動作にも電気が必要です。
このように、コンピュータは計算、データの保持、伝送の全てに電気が必要な構造なのです。データの移動は頻繁に行われています。コンピュータはその能力の少なくない部分を、直接計算とは関係の無いデータの移動に費やしており、それはコンピュータの計算処理能力の一部を消費し、さらに電気も消費していることになります。
今のITを取り巻く問題とは、どうしてもコンピュータが多くの電気を使用する状況を変えられず、さらにその数を増やそうとしている点にあります。近い将来のうちであれば、それほど問題にはならないかもしれませんが、前回の例に挙げたようなことを実現しようとすれば、問題は顕著に表面化します。何かを変えなければ、この先のITで何かを実現しようとする投資への効果は低下してしまいかねません。
こんな未来にまつわる問題は全く解決できないのでしょうか。私の所属する会社ではこのアーキテクチャを新しい物に変えるべきだと考えています。次回からはこの連載のタイトルにある「新世代コンピューティングの鼓動」について紹介したいと思います。
日本ヒューレット・パッカード株式会社の「The Machineエバンジェリスト」。Hewlett Packard Enterprise(HPE)の中央研究所「Hewlett Packard Labs」が認定するエバンジェリストであるとともに、普段はミッションクリティカルなサーバ製品を担当するプリセールスSEとして導入提案や技術支援を行う。ベンチマークセンターのエンジニアとしてHP-UXとOracleデータベースの拡販支援やサイジングを担当後、プリセールスエンジニアとして主に流通業のお客様やパートナー様の提案支援を経験し、現在に至る。
趣味はスキー、ダイビングといった道具でカバーできるスポーツ。三宅氏のブログはこちら。
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