突出する中国のフィンテック投資、日本では巨大な貿易金融に革新の期待がFintech Innovation Lab AsiaPacific Investor Day 2016 Report(2/2 ページ)

» 2016年11月10日 08時30分 公開
[浅井英二ITmedia]
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 アラウェイ氏はまた、ロボティクスや人工知能では日本が世界をリードしていることを指摘し、例えば、金融機関のバックオフィス業務のさらなる効率化につながるテクノロジーにも高い価値があるとする。

 「ロボットは工場だけでなく、近い将来、銀行にも導入されるだろう。売掛金、買掛金の支払いでも、送られてきた請求書をロボットが開封し、スキャンして、帳簿と照らし合わせて支払いまで人手を介さずに行うことで、コストを劇的に下げ、精度も上げられる」(アラウェイ氏)

中国の大手銀行で概念実証が進む日本のフィンテック企業も

SIORKの増田晴樹CEO

 今年、Fintech Innovation Lab AsiaPacificで選ばれた8社の中にもそうしたテクノロジーを開発している新興のフィンテック企業が含まれている。唯一、日本から選ばれたSIORKだ。日本IBMで金融業界のコンサルタントとして働いた経験のある増田晴樹氏が仲間と共同で設立、CEOも務めている。

 同社は、マネーロンダリングのような不正取引を防止する金融機関向けのソリューションを開発している新興のフィンテック企業だ。IBM時代には欧米で開発された製品を日本の金融機関に導入する支援をしていたが、英語ベースのため、なかなか効果を上げられなかったことが創業のきっかけだという。人工知能の学習能力を活用した漢字の曖昧マッチングアルゴリズムを採用しているのが特徴で、日本語や中国語による取引も監視できる。顧客行動を自動学習し、疑わしい取引の検知を行うと同時に、犯罪予防のためにリアルタイムで取引をブロックする仕組みも提供している。

 Fintech Innovation Lab AsiaPacificの育成プログラムでは、ハードコピーをそのままスキャンする機能が必要だ、というフィードバックをもらい、機能追加したという。

 「現在、6億の口座がある中国大手銀行でPoC(概念実証)を進めているところ。巨大なマーケットに参入する欧米の金融機関にとってもSIORKのテクノロジーは必要とされるはずだ」と増田氏は話す。東京を拠点としながらも既に台湾と米国にもオフィスを展開しているという。

リーマンでの経験を生かしてフィンテック企業を創業

 8社の中には、香港を拠点としているが、日本のエンジニアがCTOを務める新興のフィンテック企業もあった。欧州のLehman Brothersで働いた経験のある井口喜晴氏が、やはり欧州のLehman Brothersでポートフォリオ分析を統括していたウィン・チェン氏(現在CEO)とともに2013年に創業したLatticeだ。

 同社の主力製品であるLattice Elegant Portfolio Discoveryは、機関投資家などを対象としたもので、ポートフォリオを組む意思決定に彼らの考え方を出来るだけ反映できるようにするテクノロジーが組み込まれている。金融業界では、さまざまなリスクと個別の銘柄の相関関係を数値化して提供するデータベンダーが存在するが、彼らが定義する要素に投資スタイルを合わせづらいという課題がある。Latticeのテクノロジーであれば、投資家が自分なりに重視する要素、例えば、バリュー株への投資を増やしてみたい、という考え方を数値で表現して入力していくと、S&P 500や日経225から具体的な銘柄を選び出してくれるという。

Latticeの井口喜晴CTO

 「ロボットアドバイザーが話題を集めているが、そのアルゴリズムはブラックボックスだ。投資家には、こういう状況なら自分はこうしたい、という曖昧ながらも考え方があるはずで、それを個別の銘柄のポートフォリオに変換していくのがわれわれのテクノロジーの狙いだ。投資プロセスの透明化を実現するもので、リーマンショック以降の規制当局の動きは追い風にもなっている」と井口氏。

 現在は、機関投資家やポートフォリオマネジャー、リスクマネジャー、トレーダーを対象としたポートフォリオの最適化と分析のツールだが、使い勝手をさらに改良し、将来は個人投資家向けにも提供していきたいと話す。

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