これまで連載の中で挙げてきた、さまざまな要因がその背景にありますが、今回の会話にも出てくる、「個別の要望にきめ細やかに応える、職人的な文化」という考え方も阻害要因の1つだと考えています。
「標準化してしまうと、他社と同じような内容になってしまい、差別化のポイントが失われる」という意見をよく聞きますが、この考え方も間違っています。そもそも、ハードウェアもOSも、そしてデータベースやミドルウェアも、世の中でデファクトとなっている企業の製品を採用しているケースがほとんどですから、運用の部分で差別化を図るのは本来至難の業です。
できたとしても、その運用ができない企業に代わって運用を行うというサービスくらいでしょう。しかし、実際にそのようなサービスを提供している企業は、他社との厳しい価格競争にさらされており、かつ近年では高度に標準化、自動化されたパブリッククラウドサービスにシェアを奪われています。
どの企業も使っているハードウェア、OS、データベース、ミドルウェアの最適な運用(ベストプラクティス)は、大してバリエーションがあるわけではありません。差別化を図るならば、その上のレイヤーで稼働するアプリケーションに注力したほうが効果が出やすいはず。それ以下のレイヤーはベストプラクティスで標準化し、かつ自動化するのが投資対効果の面でも望ましいです。
世の中で実績のあるデファクトな製品と、ベストプラクティスで標準化・自動化された「基礎」があって初めて、職人的な差別化を行えるわけで、それがないのは、芸術や武道でいうところの“形無し”と同じです。「形があって初めて、型破りなことができる」というのは、エンタープライズITの世界でも共通していると思います。
では、どのように標準化を進めればよいのでしょうか。ここ最近の業界標準としては「IT4IT」などがありますが、まずは、本記事で挙げた考え方やマインドを持って自社のシステムを見直すのがスタートだと考えます。その一歩が進められるか、進められないかの差は意外と大きく、仮に進められたとしたら大きな一歩になるでしょう。その後、実践方法のリファレンスとして、業界標準を参照するのがよいです。機会があれば、連載の中でもIT4ITを扱いたいと思います。
以上、今回までパッケージソフトウェアを導入するフェーズでの失敗例をご紹介しました。次回からは、導入から運用に移行するときの失敗例を取り上げていきます。お楽しみに。
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