話題の「AI」を巡る最新事情エンプラニュースナナメ読み(2/3 ページ)

» 2017年01月30日 12時00分 公開

AI活用に必要なものとは

 一言でAIといっても、その実現にはさまざまな要素が必要だ。Alexaのような音声対話アシスタントの場合、中でも重要なのが「自然言語解析」である。相手の発言内容を理解し、それに適切な形でより自然な受け答えを行うことがAIには求められる。

 AIの強化手法には「機械学習(Machine Learning)」や「深層学習(Deep Learning)」などがあるが、膨大なデータを集めてコンピュータに関係性を理解させることで、こうした人間に近い言語能力や認識能力を持たせることができるようになる。IBMなどがWatsonで提唱している「Cognitive Computing(認知コンピューティング)」は、この仕組みを開発者がサービスとして利用できるようにしたものだ。

 一方で、こうした仕組みを実際に一般ユーザーが利用できるよう“落とし込む”にあたっては、サービスを提供する事業者からAIへのさらなる「教育」が必要になる。今後多くのAI関連のサービスや商品が市場に出てくることになるが、前出のAlexaのように、土台となるプラットフォームが存在し、そこにSkillのような「個々の用途に最適化されたサービス」が乗っかる形が一般的となるだろう。

 この「自然言語解析」を使った新サービスとして年末年始に話題となったのが「AI記者」だ。2016年末に西日本新聞がAIを使った天気予報に関するニュースを配信したほか、2017年1月25日から、日本経済新聞がAI記者を利用した決算ダイジェストの速報の配信を開始した。「定型のデータを集めて読みやすい形で要約する」というのがAI記者の役割ということで、新聞記者がいますぐに職を失うようなものではないが、今後はこうした定型ニュースやプレスリリースからのストレートニュース起こしのような比較的単純な作業については人力を借りずにある程度の自動化が可能になるとみられている。

 現時点で人力によるカスタマイズが必要な一方で、高度に進化したAIは人間よりも正確に目的を遂行することが可能だ。例えば2016年末には謎の棋士が現れてオンライン囲碁の世界ランカーらを次々と打ち負かしたことが話題となったが、2017年に入ってGoogleは正式にこの棋士が「AlphaGo」という同社が開発したAIプログラムであることを明らかにしている。

 AIにゲームをやらせて人間と勝負するという構図は、かつてIBMがWatsonをクイズショウの「Jeopardy」に出演させてアピールするという手法にもみられるが、その力を示すうえで非常に分かりやすい。

 ただ、実際にAIを広く活用するにあたっては「より自然に生活や日々の作業に溶け込む」という点が重要になる。例えばGoogleはAI技術の応用で、圧縮された画像を自動補完して高解像度画像に変換する仕組みを用意し、携帯電話ユーザーがより少ない通信容量で写真を楽しむ仕組みを提案している。

 手動の計算では非常に手間と時間がかかるが、必要なデータを大量投入してコンピュータによる判定を行えば、将来的に犯罪の危険度に応じて移動ルートを自動設定したり、狙われやすい駐車場を避けたりといったことも容易になる。こうした判定プログラムの応用で自動保険設定サービスなどの提供も可能になるという、FinTech的な事例も出現しつつある。

 深層学習に必要なプログラミングのアルゴリズムについても、人手を使うよりもコンピュータそのものに任せた方がいいという時代も近いかもしれない。MIT Media Labのレポートによれば、AIが記述したアルゴリズムの方が効率的に学習処理が可能になるという話も出ており、かつてSFの世界での定番ネタとなっていた「機械の能力が人間のそれを上回る」という「シンギュラリティ(Singularity)」の世界はもう間近まで迫っていると感じる。

 このように急速にAIの仕組みが発展したことについて、Googleの共同創業者の1人であるセルゲイ・ブリン氏はBloombergのインタビューで驚きを伝えている。

 ただ、こうしたAIの急速な発展によって人間の職が奪われてしまうのではないかという危惧も少なからずある。筆者が最近の取材で米Bank of Americaの事例を聞いたところによれば、同社ではAI導入によって窓口業務の多くをAIによる自動処理へと移行する一方で、そこでの余剰人員をより高度な作業や対人行動を必要とする作業へと振り分け、最終的に人員の再配置による効率化と成長を計画しているという。似たような話題は米Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏が世界経済フォーラムのダボス会議で語っている。昨今、世界経済の成長率が急速にしぼみつつあるなか、この時代を乗り切るためにも逆にAIが必要になるという考えを説いている。

Bank of Americaが計画するAI導入による人員の再配置 Bank of Americaが計画するAI導入による人員の再配置

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