そこで日本マイクロソフトと協力し、PowerPointのアドインツール「Office Mix」を使って、プレゼンテーションファイルとWebカメラなどの動画を組み合わせる形で、簡単に講義動画を作り、クラウド上(Docs.com)にアップロード、映像コンテンツサイト「大学教育テレビジョン」経由でURLを公開するシステムを開発した。
「このシステムを使えば、1時間の授業に対して編集作業が5分程度、クラウドへのアップロードが5分程度で済む(※スマートフォン用にmp4に変換する場合はさらに時間がかかる)。教員1人でも動画を作成でき、PPTごとに動画を編集できるので、次年度以降は差分のみを修正すればいい。専用ツールも要らないため、教員の負担も含めたコストは激減する」(井上氏)
会見では、映像コンテンツを作成するデモンストレーションも披露。数分間の映像を編集し、アップロードまで5分弱で完了した。コンテンツに応じてアクセス許可や共有の設定を調整でき、科目ごとにパスワードを設定して学生にメールで知らせるという。費用についてはMicrosoft Azureの運用費くらいで、「ほぼかからない」そうだ。
クラウド上で展開するため、利用可能な教員数や登録可能な動画数、そして同時に視聴可能な人数の制限がなくなるのも特徴だという。「全国15万人の大学教員全員が使用しても、余力がある形で配信できる」(井上氏)という。他の大学が静岡大学と同様のシステムを構築する場合は、50万円の初期費用に、年間の運用費用が80万〜90万円になるイメージとのことだ。静岡大学内のシステムを使う場合、運用費用はかからない形になるという。
今後、静岡大学では本システムに自動翻訳機能を追加したり、基幹システムや事務用システムなどをMicrosoft Azureに移行したりすることを視野に入れているという。
「現在は72台のプライベートクラウド、280台のパブリッククラウドを利用している。今後はプライベートクラウドをMicrosoft Azureに移行し、全システムの95%〜97%をパブリッククラウドにしたい。日本リージョンが設置され、信頼性が高まったことで基幹システムの移行も検討できるようになった」(井上氏)
会見に出席した日本マイクロソフトの平野社長は「先進的な取り組みを全国の大学に広げていく。文教部門の担当者20人に加えて、1000社の教育機関向けパートナーとともに、全国にある約800の大学へアプローチしたい」と意気込みを語った。
JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)など、オンラインの大学講座は増えつつあるが、まだ広がりを見せていないのが現状だ。井上氏はその理由を「動画を作る主体がサービスの運営者側にあるため」だと分析する。教員一人一人が動画を作成するようになったら教育の形は変わるのか――これこそがマイクロソフトが狙う“大学教育のデジタルトランスフォーメーション”だ。
「この取り組みは教員の教え方、そして学生の学び方を変革するものになる。低コストの反転授業は世界的に見ても画期的であり、教育の革新をもたらすことになるだろう。日本全国の大学におけるデジタルトランスフォーメーションの推進を支援していきたい」(静岡大学 伊東幸宏学長)
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