今、エンタープライズ向けクラウド市場で注目されているのは、SAPとOracleの巨大な顧客基盤が今後どのように動いていくかだ。これまでSAPはERP、Oracleはデータベースを中心に、エンタープライズ市場で確固たる存在感を保持してきた。とはいえ、ソフトウェアの利用形態がオンプレミスからクラウドへ移行する動きが活発になってきた中で、両社の顧客基盤が大きく揺らぐ可能性もある。
というのは、SAPがHANAを投入したことで、両社はエンタープライズソフトウェアにおいて、データベースを中心としたプラットフォームでも業務アプリケーションでも競合する関係になってきたからだ。さらに、データベースではAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft、IBMといった強力なIaaSベンダーもOracle対抗製品を打ち出している一方、業務アプリケーションではSalesforce.comに代表される勢いのあるSaaSベンダーが続々と登場している。
そうした中、SAPやOracleとしてはクラウドへ移行しても現在の顧客基盤を維持し、さらには拡大していきたい考えだ。そのため、両社とも自社のクラウドサービスを強化しているが、ここにきて大きな違いが浮き彫りになってきている。それは前出の強力なIaaSベンダーとの関係だ。
実は、SAPはクラウドにおいて今回のGoogleと同様の提携をAWS、Microsoft、IBMとも既に結んでいる。その意味では、むしろGoogleがようやくエンタープライズ市場に本格参戦してきたという動きの方が新味がある。つまり、SAPはHANAや業務アプリケーションを提供していくうえで、自前のIaaSにはこだわらないという戦略だ。
一方、OracleはかねてAWSやMicrosoftのIaaS上でもデータベースなどを利用できるようにしてきたが、2017年1月にそれらの利用ライセンス料金を2倍に引き上げた。この動きは、Oracleが自社のIaaSに顧客を引き込みたいという意思の表れと受け取れる。つまり、自前のIaaSにこだわった戦略である。この点が、SAPと大きく違っている。
ただ、Oracleは自前のIaaS環境をパートナーやユーザーが運営するデータセンターでも利用できる仕組みを提供している。日本でいえば、富士通やNEC、NTTデータと協業して進めているのがこの手法だ。それぞれの仕組みに多少の違いはあるが、Oracleからみれば、どれもあくまで自前のIaaSである。
今後、エンタープライズ向けクラウド市場において、SAPとOracleのどちらの戦略が奏効するのか。さらにIaaSとPaaSを合わせたクラウドプラットフォームで主導権を握るのは、オンプレミス時代に引き続いてSAPとOracleなのか、それともAWS、Microsoft、IBM、そして今回エンタープライズ市場に本格参戦したGoogleなのか。いずれにしても、この分野の勢力争いがますます激しくなることだけは間違いなさそうだ。
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