MSクラウドの優位性はどこにあるのかMicrosoft Focus(2/2 ページ)

» 2017年05月27日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]
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Cognitive Services APIの進化でコグニティブな開発環境が身近に

――2016年11月に「Microsoft Dynamics 365」が日本で投入されてから半年たちましたが、その手応えはどうですか?

沼本:Dynamicsのうち、クラウド製品に限定すれば、2016年度第3四半期の成長は82%増に達しています。その点でも、Dynamics 365のこの半年間の滑り出しには強い手応えを感じています。

 リードから回収までを1つにしたいという顧客の要望があったものの、従来のDynamicsでは、いわばベンダーの都合でCRMとERPという2つのビジネスプロセスが分断していました。これはデータを分断していたともいえます。

 Dynamics 365によって、こうした課題が解決され、エンド・トゥ・エンドのビジネスプロセスのプラットフォームを提供できるようになりました。しかも、それを、包括契約を前提とするのではなく、必要なところから始めてもらえる仕組みになっています。カスタマサービスのところから活用したいといったことにも対応できますし、フィールドサービスのところで利用したいといったことにも対応できます。

 大切なのは、スモールスタートしたプロジェクトを大きく展開するときにも、必ずデータプラットフォームとして整合性が取れ、データを縦割りのままで残さないことが可能になっている点です。Dynamics 365が評価されているのもこの部分です。実際、以前に比べると、大規模案件が増えており、Dynamics 365の大きな成長の原動力になっています。

 また、Salesforce.comを利用していたユーザーが乗り換えるケースも出ていますね。先日、「Microsoft Dynamics 365 for Talent」などの新製品を追加しましたし、製品ポートフォリオは今後ますます拡充することになります。

――この半年間の進ちょくは合格点といえますか?

沼本:私自身は、誰からも合格点をもらえることはなくて……(笑)。毎週金曜日には、シニアリーダーシップチームから呼び出されますが、「よくやったね」といわれることはほとんどありません(笑)

――クラウドビジネスにおいて見逃せないのが、「Microsoft Cognitive Services」の進化ということになりますが

沼本:2年前にCognitive Servicesがスタートした際には、4つのAPIでスタートしたものが、今では30以上に増加しています。事例もたくさん出てきており、これまで以上に、Cognitive Servicesを分かりやすい形で、多くのパートナーや顧客に伝えすることが大切だと考えています。

 Build 2017でも「Vision API」を活用したサービスをデモストレーションで紹介しましたが、顧客が持つデータセットを活用し、さらに学習させてカスタマイズしていくと、より最適化したサービスとして利用できるようになります。

 また、2016年の「Build 2016」では米McDonald'sの導入事例を紹介したのですが、ドライブスルーのメニューに最適化した形で音声認識を進化させると、汎用(はんよう)的なものよりも認識率が一気に上がるようになります。

 APIが増えているだけでなく、各サービスに向けたカスタマイズも大きく進化しているという点は重要です。

――日本では「みんなのAI」という表現をしていますが、そこに踏み出せない企業も多いように感じられます。AIは難しいのではないか、あるいはどう使ったらいいのか分からないという声も聞かれます。

沼本:その一方で、AIに対してハードルが低くなってきたという声も増えているという手応えも感じます。顧客もAIを理解し始めていますし、われわれも説明の仕方が上達してきた(笑)という点も挙げられます。例えば、デベロッパードキュメンテーションを出すだけでなく、より具体的な使い方を示すようにしています。

 AzureのCognitive Servicesのサイトは、Build 2017にあわせて変更したのですが、それを見ていただくと、誰でもCognitive Servicesを一度やってみたいと思うのではないでしょうか。そこでは、写真をアップロードすると顔を認識して、こういうJSON(JavaScript Object Notation)が返ってくる――ということが分かるようになっています。

 また、好きな写真をアップロードして、その場で試すこともできます。このような、自ら試すことができる環境を全てのCognitive Servicesで用意しています。

――Microsoftでは、2018年度(2017年7月〜2018年6月)にクラウドビジネスの売上高で200億ドル(約2兆2000億円)を目指しています。これは上方修正しそうな勢いです

沼本:2017年度第3四半期のベースにしたランレート(直近の実績値の傾向がそのまま続くと仮定した場合の将来予測値)では、2017年度には150億ドルを超えると想定されています。これを上方修正するかどうかは、CFOに聞いてください(笑)。今のMicrosoftの成長を支えているのは明らかにクラウドビジネスであり、成長ドライバーであることに間違いありません。

――一方で、日本マイクロソフトでは、2017年度にクラウド売上比率を50%にすることを目指しています。日本市場におけるクラウドビジネスの成長ドライバーはどこにありますか?

沼本:日本は、クラウドの伸びしろが大きい市場であり、他社に比べてもそのチャンスがあると考えています。クラウドベースのプロダクティビティサービスを活用しているユーザーが増えており、市場規模から見ても、「Microsoft Office 365」の伸び代はまだまだあると考えています。

 Office 365を活用することで、ユーザー自身の環境をモダン化し、それを加速できます。例えば、Office 365を使うと、「Azure Active Directory」は、認証システムがクラウドベースの「Azure AD」に移管され、それによって提供されるマネジメントやセキュリティサービスが利用できるようになります。

 さらに、新規のSaaSアプリが次々とAzure ADに関連付けられるようになっており、現時点では、約3000種類にまで増えています。エンタープライズユーザーが開発するアプリもAzure ADと連携するケースが増えており、Azure ADによって、セキュリティを担保した形でアプリが利用できるようになっています。

 そうなると、エンタープライズユーザーがアプリ開発にAzureを活用するケースが増え、Azureのコンサンプション(消費)が増えるといったように、いわば、雪だるま式にクラウドビジネスが成長していくサイクルが生まれます。日本ではこの動きがこれから本格化すると考えています。

――日本におけるクラウドビジネスの課題はありますか?

沼本:これは日本固有の課題というよりも、どこにでもある話なのですが、新たなスキルセットを、パートナーや顧客に身に付けてもらうことが大切です。

 Microsoftのパートナーや顧客の方々は、オンプレミスベースの技術に長年の経験を持っている点が大きな強みでもあります。しかし、それに加えて、クラウドフレンドリーなユースケースにも対応することができるようにならなくてはなりません。そこに対して、Microsoftがいかに支援をしていくのかが、クラウドビジネスにおける課題の1つになります。

 業界全体として、新たなスキルセットを高めるスピードを上げなくてはなりませんし、しかも、これから求められる新たなスキルセットは、次々と進化をしていきますから、一度トレーニングをしたからそれで終わり、というわけではありません。

 日本では、エンタープライズシステムに関してはパートナーへの依存度が高いという背景がありますから、まずはパートナーとともに新たなスキルセットを高めるための努力が必要ですが、顧客自身もスキルセットを高める必要があります。

 Build 2017では数多くの新製品、新サービスが発表されましたが、それにあわせてビジネスモデルを作り、いかに価値を訴求するのかといったことを考えていくつもりです。

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