変わることができなければ、人も企業も時代に取り残され、淘汰されてしまう――。不安をあおる言葉があふれる一方で、「変わる」のは難しい。それでもあえて自分を苦手な環境に追い込み、変わろうと奮闘する「エバンジェリスト」がいる。
ビジネスを取り巻く環境の変化が激しい昨今、変わることができなければ、ビジネスも人も、企業も時代に取り残されてしまう……。頭では分かっていても、変わらない方がラクだし、何より変わるのは面倒だ。その一歩を踏み出すのは、とても難しい。
それでも、変わるならまずは「自分」から――そう言い聞かせ、苦しみながらも新たな挑戦をするエバンジェリストがいる。日本ヒューレット・パッカード(HPE)で、クラウドインテグレーションエバンジェリストとして活動する土田隆文さんだ。37歳にして、初めて、新たに立ち上がる技術者コミュニティーに運営側で参加するのだという。
「なんと言うか、自分は本当に人見知りというか、『コミュ障』というか……とにかく知らない人と話すのが本当に苦手なんですよ。いろいろな人たちに“変わらなければ”と言っている自分がこんな感じなのは、本当に恥ずかしい話なのですが」
それでも土田さんが、コミュニティーの立ち上げに関わろうと思ったのは、強い危機感があったためだ。そのキーワードは「バイモーダル」だという。
「昨今、エンタープライズITの世界では、ガートナーが提唱した“バイモーダル”という考え方がトレンドになっています。俗に言う“守りのIT”がMode 1、“攻めのIT”がMode 2というイメージです。両者をうまく組み合わせて投資を行わないと、企業は淘汰(とうた)されてしまうという文脈で使われることが多いのです」(土田さん)
ビジネスの文脈では、UberやAirBnBなど、異業種からの新たなプレイヤーによって既存のビジネスが一変するというストーリーが各所で語られている。一般的にMode 2への意識の低さが指摘される日本企業だが、「ビットコインなど、規制緩和が進む金融業界を中心に、Mode 2へかじを切る企業は増えている」と土田さんは話す。
「最近、お客さまのところに行くと、4月に行われたDockerConで、VISAの事例が発表された話が多く出てきます。IT部門やインフラエンジニアにとって、大きな衝撃だったのだと思います。新しいサービスを早くリリースしていかないと、どんどん自分たちのビジネスがなくなっていくという危機感が、金融業界には特に多いのだと思います」(土田さん)
バイモーダルで生死が分かれるのはビジネスだけではない。人材にも同じことがいえる。Mode 2を進める企業はコストや人材の再配分を行うことが多く、特に20代から30代前半の若いメンバーを投入するケースが目立つという。失敗しても影響が少ない環境で、投資を抑えながら、将来のビジネスを支える新たなチャレンジを行うのだ。
投資が少ないうちは、失敗したり、適性がなかったりしてもMode 1の事業に人を戻すことができる。こうして少しずつMode 2の人材を増やしていくわけだが、人材を増やそうとしても、価値観や考え方を変えられずに失敗してしまう例も後を絶たないという。
「バイモーダルにおいて、もっとも変わらなければならないのは、実は運用プロセスの部分です。この部分は少しずつ変えるということができず、一気に変えなければならないため難しい。プロセスというのは文化ですから。先日もクラウドを使ったインフラ構築自動化の案件で、『サーバー名が自動生成されるが、社内のネーミングルールが変更できない』という理由で詰まってしまったという話を聞きました。
ビジネス上の効果を考えると、本質的な点ではないようにも思えますが、それほど人間というのは変わるのが難しいともいえます。こうなると、もう今まで通りのことしかできなくなってしまうか、最悪“バイモーダル死”してしまいます」(土田さん)
道具が変わっても、人間が変われなければ価値がない。土田さんはこの状況を見ていると趣味のスキーを思い出すそうだ。土田さんがスキーに明け暮れていた約20年前、スキー板に“革命”が起きたのだという。
「カービングターンが簡単に行えるカービングスキーが登場して、またたく間にスキー板の主流が変わるとともに、滑り方も一変してしまいました。今までは真っすぐで長い板を人間がどうコントロールするかがスキーの技術だったけれど、今は板が人間の能力を超えてしまって、板に人間の滑り方を合わせる形になった。スキーにも教本があって、毎年アップデートされていますが、正しい滑り方というのもどんどん変わっているんです」(土田さん)
ところが、昔の滑り方に慣れてしまった人は、カービングスキーに対応できず、逆にうまく滑ることができないのだという。昔のスキー板を使い続ける人もいるが、旧型の板は世の中にほとんどない状況だ。新たな板に適応して滑り方を変えられた人は、たとえ経歴が浅くても、大会などで勝っていく。
「同じようなことで、クラウドを2年勉強したエンジニアに、レガシーなエンジニアがスピード感で勝てないということはあるかもしれません。しかし、逆にレガシーなエンジニアがクラウドに手を出せば、それは大きな価値になると思うんです。よく言われていますが、市場にバイモーダルなIT人材というのはまだほとんどいません。クラウドから入った人が、レガシーな技術に手を出すことはほとんどありませんから」(土田さん)
技術の1つ1つは点のようなものかもしれないが、それらがつながることで線になり、やがては面になり、その人の価値を上げていく。年齢を問わず新しい技術にチャレンジしたり、外の情報を早く仕入れるために自分の情報を早く発信したりというのが、バイモーダルで淘汰されない人材になるために、必要な姿勢だという。
バイモーダルに対応する人材になるのは、簡単なことではないからこそ、希少価値が高い。将来に不安を残しつつも、新たな技術を学ぶ一歩を踏み出さないのは、今稼いでいるビジネスや、今やらなければならないことに意識が行ってしまっているのが大きい。
「寝ないで勉強するという“意識が高い”人も一部いますが、いきなりそこまでしなくても、まずは何かしらの勉強会に出てみるだけでもいい。今はイベント告知プラットフォーム等も充実していて探しやすいし、コミュニティーや発信する場も昔に比べて増えました。やはり社内や1つの技術に閉じてしまうと、心の奥底で変わりたいと思っていても、行動が全部内側に閉じていき、忙しくてできないと考えてしまいがちです」(土田さん)
こうした状況を打破するには、外へ外へと気持ちを向けるしかない。外から入る情報に耳を傾けることで、業務をしながらでも自然に情報が入ってきたり、日常業務に結び付く形で、少しずつ自分を変える可能性を見つけていくのだ。こう語る土田さんも、自分を変えたいと強く願い、行動を起こそうとしている。
「恥ずかしい話なのですが、さまざま勉強会に参加しているものの、飲み会(懇親会)は怖くて一度も出ていません。エバンジェリストとしてどうなのかと聞かれたらそれまでなのですが……(笑)。自分ももう37になりました。20代から30代前半が活躍する他企業の話を聞いていると、もうチャレンジできる年齢ではないのかもしれません。
私はHPUXを中心とした、レガシーかつミッションクリティカルな大規模基盤のエンジニアやプロジェクトマネージャを経て今、クラウドなどMode 2のプリセールスを担当しています。私自身もまさにMode 2に向かっているというか、まさに変革の真っただ中で、頑張っているところなんですよ」(土田さん)
土田さんは今まさに、オープンソース型のクラスタマネージャ「Apache Mesos」の日本ユーザー会「Mesos User Group Tokyo」に参加している。新たに立ち上がったコミュニティーに乗る形で運営を手伝っているが、当然業務には含まれない“課外活動”だ。MesosはDockerコンテナを管理する技術として、昨今注目を集めているという。
第1回のイベントを立ち上げたところ、参加者が100人を超える人気イベントになり、第2回は7月25日に開催する予定だという。運営として関わることで、懇親会にも参加することになるし、ライトニングトーク(LT)に挑戦する機会も生まれる。強制的に自分を追い込んでいく作戦だ。
「コミュニティーを通じて人が変わるというのは、最近とても感じています。特に使っていた技術がHPUXとかVMwareとか、そういうプロプライエタリなシステムだけを扱っているときは、社内に閉じていても余裕があったのですが、クラウドへ方向を変え、だんだんとOSSが中心になる話になると、コミュニティーに属する人たちとのコミュニケーションが増えました。彼らを見ていると、コミュニティーで人が育ったり、変われたりするんだとすごく感じます。自分自身もそういう場所で変わりたいと思っているんです。
新しい技術を取り入れたバイモーダルな人材には、大きな価値とチャンスがあります。そういうインフラエンジニアは、将来至る所で活躍して、給料も上がるだろうし、ステップアップしていくはず。最初の一歩が踏み出しづらいと思ったら、僕に相談しに来てください。僕自身もチャレンジ中で頼りない面もあるかもしれませんが、一緒に次のステップへと進めたらいいなという思いです」(土田さん)
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