IDベースのセキュリティ対策を実現する具体的なソリューションとしては、企業内システムにおけるID管理では圧倒的なシェアを占める「Active Directory(AD)」、3000以上のSaaSアプリケーションとシングルサインオンを実現しているクラウドベースの「Azure Active Directory」、そしてそれらを基盤として協調動作するセキュリティソリューション「Microsoft Enterprise Mobility+Security(EMS)」を中心とし、協賛企業の持つ製品やサービスと組み合わせながら、共同検証などを通じて新たなセキュリティ対策ソリューションを生み出し、普及活動を展開していく構えだ。
ID-based Securityイニシアティブの設立メンバーは、主幹事をラック、事務局を日本マイクロソフトが担い、インテリジェンスビジネスソリューションズ、F5ネットワークスジャパン、サイバートラスト、Sansan、富士通、マネーフォワードが幹事として名を連ねている。今後はさらなる拡大に向けて、まずは2017年内に200社規模にしたい考えだ。
以上が発表内容だが、この動きをどう見るか。
まず、クラウド向けセキュリティにおいてID活用が非常に重要であることは異論がないだろう。その意味で、オンプレミスのADからID管理に注力してきたMicrosoftが強い問題意識を持ち、今回のようなコミュニティー形式で協賛企業とユーザーニーズにいち早く対応する姿勢は大いに評価されるだろう。
一方で、IDはセキュリティだけでなく、さまざまなビジネスを生み出す“経済圏”とも解釈できる。だとすれば、オンプレミスに続いてクラウドでも“ID経済圏”の大半を獲得したいというMicrosoftの思惑も透けて見える。
これに対し、日本マイクロソフトの高橋氏および佐藤氏は、「このコミュニティーはあくまでクラウド環境でのIDセキュリティを普及促進していくことが目的で、そのIDやクラウドサービスを限定しているわけではない。趣旨に賛同していただけるならば、競合する会社でも歓迎したい」と答えた。
その意味では、Microsoftと同様にメガパブリッククラウドサービスを提供するAmazon Web Services(AWS)やGoogle、さらにソフトウェアで競合するOracleやSAPがこのコミュニティーに協賛することがあれば、というところだが、果たしてどうか。
ただ、ビジネスの観点からいえば“クラウドID経済圏”を取りに行くのは当然のことだろう。しかも、それはパートナーやユーザーも合わせたエコシステムによって形成されるので、今回のようなコミュニティー形式でスタートするのは利口な作戦だと考える。今回の動きを機に、クラウドID経済圏を巡る勢力争いがどうなっていくのか、注目しておきたい。
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