乗り気でない人に、働き方改革をどう伝えるかMicrosoft Inspire 2017(2/3 ページ)

» 2017年07月14日 10時30分 公開
[園部修ITmedia]

ツールだけ導入してもうまくいくことはないが、数値化は重要

 こうした日本マイクロソフトの働き方を支えるツールが、「Windows 10」であり、「Office 365」であり、「Skype for Business」なのだが、ツールだけ導入してもうまくいくことはないという。「それ以前の問題として、みんなが集まって何かしましょう、というマインドセットを変えてもらわないとどうしようもない」(澤氏)。そのためには、報告、連絡がどれだけ自動化できるかがポイントになる。

 澤氏は実際に自身が普段見ているマイクロソフトテクノロジーセンターのダッシュボードを開きながら、予算への貢献度、顧客と実施したセッションの回数などがすぐに参照できる様子を披露した。スタッフが今忙しいのか暇なのか、1年間でどれくらいセッションをやったか、月間の平均でどれくらいの回数をこなしているか、といったデータがすべて可視化されている。

 「レポートを手動で作る仕組みだと、こうした情報を集めてくる手間がかかります。さらに、大きな問題もあります。手動のレポートは、コンプライアンス違反のリスクが生じることです。売り上げや活動履歴などでうそがつける余地があると、人は怒られないようにうそをつきます。会社がつぶれることよりも、自分が怒られることが、その人にとって高いリスクだと認識してしまうようなケースがあるわけです。自動化されていれば、うそもつけないので、もう真面目に働くしかないわけです」(澤氏)

 レポートを作る時間が不要になる分、集中して仕事ができると澤氏。部門のスタッフは、事務処理ができない人も多いが、自動化したおかげで、その苦手なところに一切の頭を使うことなく、自分の得意な分野にフォーカスできるようになっているという。

 とはいえ、このレポートだけでは分からないこともある。スタッフが小耳に挟んだ面白い話など、直接、売り上げには関係がない「行間」のようなもの、ちょっと仲間と共有しておきたい情報などは、自動で生成されることはない。そこで定性的なものは「Yammer」で共有している。澤氏はスタッフに、週に最低1回か2回くらいは、義務として何かを投稿するように伝えているという。たいした手間ではない上に、写真を撮ってアップするだけでも簡単に情報共有はできる。それでレポートと見なすそうだ。これで軟らかい情報を補足している。

 さらに、部内の情報共有には「Teams」も使っている。米国本社側から日本の誰かに相談したい場合などにも、Teamsの日本チームのグループに相談が来るという。メールでは見落としてしまうような情報も、確実に気付けるツールとして、YammerやTeamsを活用しているという。

 キモは「レポート業務には時間を使わない」「自動化する」そしてそのために「データを正規化する」こと。ERPでもCRMでもいいが、とにかくこれが真実、という確実なデータを1つ作り、二重帳簿を認めないことが重要だという。データの確からしさが分からなくなると、隠したり水増ししたりといったことが起こる。「ここに入っていないことは真実ではない、というところまで強くマネジメントできるかどうかが、成功の鍵になります」。

 働き方改革にまつわるさまざまな変化は、数値化が難しいといわれることもあるが、そんなことはないと澤氏は言う。

 「ペーパーレス化がどれくらい進んだかは、総務に聞けば分かります。プリンタの管理画面などでも分かるかもしれません。女性の離職率も、人事なら把握しているので聞けばいいのです。ワークライフバランスの満足度の変化は、毎年同じ時期に実施している、全社員対象のアンケートがあれば、比較をして導き出せます。毎年同じ質問を全社員に対して行う、というフレームワークが必要なので、もし今、やっていないなら、ぜひすぐに始めるのがいいでしょう。比較できるようにしておくのがポイントです。事業生産性は売り上げが分かればすぐに算出できます」(澤氏)

日本マイクロソフトの働き方改革の結果 日本マイクロソフトが実施した働き方改革の結果

最も重要なことは、「経営者が腹をくくること」

 マインドセットの変更とツールの導入という合わせ技でこそ、働き方改革は進められるというが、結局のところ、大事なのは経営者が「やる」と決めるかどうかの話だと澤氏は言う。

 「人間はできない理由を考えるのがものすごく得意な生き物です。ですから、とにかくやると決めて実行することです」

 日本マイクロソフトが導入しているツールは、すべて市販のものであり、特別なものは1つもない。まるごとマネをすることだってできる。もともとは、日本マイクロソフトも会議が多く、生産性もグローバルと比較すると決して高い方ではなかったというが、強力に働き方改革を推進したことで、現在の成果が出た。

 特に大切なのは、経営層が社員を子ども扱いしないことだとも指摘した。米国のMBAでは、日本企業との付き合い方として、「日本企業は社員を子ども扱いするから気を付けろ」ということを教えているという。もともと日本には終身雇用という概念があり、上司と部下は年功序列で決まる、という文化があった。そのため、社員が家族のように付き合わないとバランスが取れなかったのだ。そういう経営を、日本企業は長年やってきた。

 しかし、社員を子ども扱いすると、いつしか社員も子どものように振る舞うようになる。そして経営とのギャップが生まれる。社員に大人になってもらうためには、自分で判断して、自分の活躍を可視化・数値化できるようにする必要があるのだ。

 そして、腹をくくったら意識してもらいたいのが「例外を設けない」ということ。日本企業には、例外に応えることがサービスだと思っている人がいるが、例外が増えると、それはすべてリスクとコストになる。余分な処理が増えるのでメリットはないのだ。差別化要素が全くないことは、すべて統一するのがポイントで、そうしないと属人化した業務が増えたり、不正の温床になったりする。

 どうしても例外を作ってくれと言う人がいたら、その人には「ビジネス上の正当性を数字で示せ」と伝えることが重要だという。「本当に効果があるなら、有用なアドバイスなので受け入れる」というスタンスだ。

 例えばデスクのフリーアドレス制が嫌だという人に対して、「あなたに固定の席を与えたら、売り上げが何パーセント増えるのかを証明してください」と伝えるわけだ。しかし、多くの場合それは証明できない。なぜなら、ほとんどが感情や気分から生じている意見だからだ。

 「働き方改革ができていない会社のほとんどはこのケースです。感情や気分に振り回されて、ビジネス上の正当性がないことをやっているわけです」

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