“守りの情シス”から“攻めの情シス”は生まれるか AGC旭硝子のPoC部隊奮闘記(前編)【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/2 ページ)

» 2017年07月18日 10時00分 公開
[やつづかえりITmedia]
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やる気はあるのに“とんでもコード”、独学の限界を知る

Photo AGC旭硝子 情報システム部デジタル・イノベーショングループの久保田有紀氏

 基幹システムのクラウド化が進んでいるといっても、現状は残りのシステムの移行作業などもあり、メンバーの業務量は減っていない。しかし、手が空くまで待っていては実際に余裕ができたときにムダな時間が生じてしまう。そこで浅沼氏は、“本来の業務を手掛けながらも新しいことに挑戦したい”というメンバーを募った。

 結果として、やる気のある若手社員が集まり、2016年度は業務の一部の時間を充てて、完全に独学でのプログラミングに挑戦した。社内の事業部から実際に要望があった機能の開発をするという実践的な取り組みだったが、浅沼氏は「自学自習では限界があった」と振り返る。

 「私は前職ではJavaで開発をした経験があって、それをベースに教えてあげられるんじゃないかと思っていたんです。でも、10年もたつと開発ツールも言語も全く違うんですね。Gitの使い方も、(プログラミング言語の)Pythonも全く分からない。初心者の彼らにどこから説明していいのか分からず、困ったな……、と思っているうちに、“とんでもコード”ができていました(笑)」(浅沼氏)

 “とんでもコード”を作り上げた張本人である久保田有紀さんは、当時をこのように振り返る。

 「今までやったことがないことができるのは面白かったのですが、当然、分からないことだらけで……。何か開発してみよう、この言語を使ってみようと思ったときに、一歩目からつまずいて、それをWebで検索して調べるんですけど、調べ方すら分からない。今、悩んでいるところは一体どこなんだろう? という感じで、暗闇に放り出されたような気持ちになりました。本当に長い時間をかければできるのかもしれないですけど、なかなかモチベーションが続かなくて、結構辛かったですね」(久保田氏)

 しかし、そこでめげることなく打開策を見つけてきたのも久保田さんだった。

失敗覚悟で始めた新たなトレーニング方法とは

 若手メンバーに独学で開発力を身につけさせることに限界を感じた浅沼氏は、2017年度から外部パートナーの力を借りることにした。そのヒントとなったのは、東急ハンズの執行役員で、情報システム子会社ハンズラボの社長である長谷川秀樹氏のアドバイスだという。

 「AWSを使っていると友達が増えるんですよね。その中でも長谷川さんのことは非常に尊敬していて、大いに感化されています。私以上に感化されやすく、行動力もあるのが久保田で(笑)、彼は2017年の初めにうちの部長を連れて長谷川さんを訪問したんですよ。『もっと内製化を進めていくには、部長にも同じ考えを共有してほしい』ということで、ハンズの店舗スタッフを開発者に育てた長谷川さんにいろいろと話をしてもらったわけです」

 その際に長谷川氏からもらったアドバイスの1つが、「未経験者を育てるには、最初はできる人と組ませるべき」ということだった。そこで浅沼氏は、AWSに特化したSIerであるサーバーワークスに「一緒に開発をしながら、メンバーにそのノウハウを伝授してほしい」と持ちかけたのだ。

 サーバーワークスでは、AWSの使い方を教えることはあっても、クライアントの開発部隊を育てるという経験はなかった。相談を受けた千葉哲也氏(サーバーワークス クラウドインテグレーション部 技術1課 課長)は当初、「システム開発の素人を、週1回8時間、たった数カ月の教育で、PoC(Proof of Concept:概念実証)を自分たちでできるぐらいのプログラマーに育てるなんてできるわけない。アウトプットを約束できない」と思ったそうだ。

 しかし、何度かの話し合いの後、4月から4人のメンバーがサーバーワークスの指導の下、トレーニングを受け始めた。

 「『どんな結果になっても受け入れるので、取りあえず3カ月』とお願いしました。おっしゃる通り、この活動は結果のコミットなんてしようがないと思います。ただ、仮に全くうまくいかなかったとしても、それを前提に次の作戦を立てられますよね。今度は別のトレーニング方法を試すとか、やっぱり人を採用しないとダメだとか、そういう学びを得るためにも、1回やってみるしかないと考えたんです」(浅沼氏)

 “失敗も覚悟の上”の思い切った施策だったが、トレーニングを受けている4人のとても楽しそうな様子から、浅沼氏はうまくいっていると感じている。技術の面でも着実な進歩が感じられ、そんな彼らの様子が情シスの他のメンバーにも良い刺激を与えているという。

 「“2017年に新しいことをしよう”と手を挙げたメンバーは10人いるので、残りのメンバーにもこの取り組みを横展開したいですね。どんどん広げていって、これから2年後はどうなっているのか想像がつかない。すごく楽しみです」と語る浅沼氏の表情からは、確かな手応えが感じられた。

 後編では、この取り組みに参加している久保田氏と、講師役を務めるサーバーワークスのメンバーに、実際のトレーニングの内容を聞く。

(聞き手:後藤祥子、構成:やつづかえり)

特集:Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜

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