ドコモのノウハウがぎっしり詰まった、ドコモ・クラウドパッケージの中身とはどんなものなのか。提供を始めた当初は、コンテンツの数が3種類くらいだったが、現在はガイドライン5種、デザインパターン3種、テンプレート1種の計8種類を提供している。
さすがに全容とまではいかなかったが、一部を見せてもらうことができた。例えば「クラウド開発ガイドライン」は、クラウドサービスを使い始める担当者が最初に読むべきドキュメントとしてまとめられている。クラウドの基本的な考え方を解説しているほか、一般的な開発フローの各フェーズに、どういう点に気を付けるべきか、というポイントがまとめられている。
また「AWSデザインパターン(セキュリティ)」では、クラウドサービスの情報セキュリティ管理の認証であるISO27017の各管理項目に沿って、AWSを使うときは、この機能をこう使って、各管理項目を満たしていく必要がる、という指針をまとめてある。アカウント管理や電源管理などを、具体的にどの機能を使ってやるかも詳細に解説があり、要件に合わせてAWS上でどういう風に設定して権限を絞ればよいか、なども具体例とともに紹介している。
テンプレートといって、セキュリティ対策やクラウドらしい構成を作るための設定ファイルのようなものを用意していて、これをAWS上で実行すると、簡単にその環境が作れる、というものも用意している。「インフラの構成を全部テンプレート化しているので、これを利用すると、ベースのセキュリティ対策がしっかりできた状態でサーバの構築ができます。他の会社でも同じ環境がすぐに作れるわけです」(守屋氏)
AWSは、サービス開始以来さまざまなサービスを追加しており、大幅な機能強化や利便性の向上も行っている。つまりAWSのサービス自体が時と共に変化しているわけだが、ドコモ・クラウドパッケージは、定期的に内容をアップデートしており、最新情報を提供している。さらに販売先の企業からのフィードバックなどを受け、必要なものはドキュメントに反映する。契約期間中のドキュメントのアップデートは、無料で受けられる。
ちなみに社内向けと社外向けで資料は分けておらず、内容は同じだ。コンテンツの制作はイノベーション統括部 クラウドソリューション担当のスタッフが行っている。集められた知見は、ドコモ社内では自由に閲覧できる。
現在、主要なコンテンツはAWSのものが中心だが、MicrosoftのAzureユーザーもドコモ社内で徐々に増えており、ノウハウがたまってきている状態だという。「まずは社内向けにコンテンツを作り、たまったノウハウを元に資料をブラッシュアップして、増えてきたものについては取りまとめて外に出していくというスタンスです」と守屋氏。Azure版も順次コンテンツを充実させていきたい考えだ。
ドコモ・クラウドパッケージの料金は、1社で利用する場合初年度が19万円、2年目以降は10万円。ちなみに大きな企業グループで使う場合など、グループ全体で利用できるライセンスも用意していて、こちらは初年度が29万円、2年目以降は15万円になる。子会社など、グループ全体で同じポリシーで運用したいというニーズに対応する。この資料で短縮できる時間や削減できる試行錯誤の工数を考えれば、かなりお得な価格設定と言えそうだ。
ドコモはなぜ、こうしたノウハウを惜しげもなく安価に開示するのか。その答えを森谷氏はこう説明する。
「自分たちがやっていることは、隠すことではないと思っています。現在ドコモでは、自社が持つビジネスアセットをパートナーの皆さまに利用していただいて新たなビジネスを創出する、協創していく、という理念で『+d』という取り組みをしています。協業する企業もクラウドを使っている場合、クラウド上でドコモのシステムとつなぐことができるので、オンプレミスのデータセンター同士をつなぐよりずっと容易です。後ろ側(サーバやデータセンター)をクラウドにした方が、お互いにやりやすくなるんです。今後はこういった取り組みが増えていくと考え、なるべく外にも情報をオープンにしています。
ドコモのノウハウを他の企業が参考にして、皆がうまくクラウドを使えるようになれば、クラウドがさらに普及し、ドコモにもメリットがあります。それによって、新しいものが生まれる環境もできやすくなると考えています。皆が同じものを使うわけですから、知識や経験やノウハウは共有していく方がいいんです。情報をオープンにしていることで、ドコモが遭遇したことがないトラブルの情報を、お客さまからフィードバックしていただけることもあります。これはもちろんドコモ・クラウドパッケージの内容に反映します」(森谷氏)
「ドコモはクラウドをビジネスにしているのではありません。ビジネスの主軸は、あくまでも通信事業者であり、利用者にサービスを提供する立場です。他のユーザー企業と、クラウドインフラ回りで競争する必要はありません。クラウドインフラの知識は共有し合って楽をして、本業のビジネスで頑張るべきだと思っています。いろいろ情報交換をさせていただきながら、皆でビジネスを盛り上げていけるような取り組みがしていけたらと思います」(守屋氏)
便利なインフラを有効活用し、さまざまな企業とともに新しいサービスを生み出す素地を作っていきたい――。そんな熱い思いがこめられたサービスなのだ。
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