NECから温泉旅館へ転身――元エンジニアが挑む、老舗ホテルのIT化【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/3 ページ)

» 2017年07月31日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

現場の仕事を楽にするツールを次々と自作

 最初に原さんが目を付けたのは、団体用の部屋割り印刷だった。1部屋1部屋、Wordで名前を入力して印刷している様子を見て、目を疑ったという。

 「プログラムを開発していた身からすれば、信じられないことでした。5人の名前を書いて印刷して、1文字でも間違っていれば印刷し直し。でも、お客さまは名前をデータで送ってくれているケースもある。『こんなに非効率なことはない』と思い、お客さまに名前登録用のフォーマットを送り、ボタン1つで全て印刷できるようにしました」(原さん)

 ツールが完成するまでの時間は約2時間。その後もフロント業務を楽にするため、手書きで書いていた朝食券やお風呂券などのチケットを、DBからデータを取り出して、自動で印刷できるツールを作ったが、当初は全く使われなかったという。その理由について、原さんは「条件を絞る」といった“ひと手間”があったからだと推測している。

 「今までの考え方で、自分が使いやすいだろうと思ったものを作っても、使ってもらえませんでした。人をシステムに寄せる考え方ではダメで、業務の中に溶け込むものじゃなくちゃいけない。最初は全体最適を考えていたんですけど、それだとダメで、1つの業務の負荷をどれだけ減らすかという部分最適を選びました。とにかく分かりやすく、ボタン1つで終わる、ということを心掛けましたね」(原さん)

photo 原さんが自作した料理仕分けのシステム。当日の予約状態から、料理の献立を自動検出し、調理場で用意する品の指示票(お皿の数)を自動的に作成する

 ボタン1つでできるようになっても、現場から抵抗されるときもあった。POSレジのシステムや売上集計を自動化するシステムも作ったが、既存の業務を大切にし、誇りを持っていた人たちからは嫌がられたという。そういう時は反対している人と積極的にコミュニケーションをとったり、IT活用に対して前向きなメンバーに声をかけたりといったことをして導入を進めてきたが、一方でボツにしたツールも多数あるそうだ。

 「自己満足になっていたツールもたくさんありました。特にプロダクトから入ると、『これがいい』と信じ込んでしまう傾向があります。そういうときは、実際に使ってもらって判断しますね。動きを見て、思ったシナリオと違ったらもうボツにします。そしたら自分で改善すればいいので。費用もかかりませんし、すぐにトライ&エラーができるのはいいところですよね」(原さん)

photo 原さんが自作したバイキングのPOSシステム。Excelを使っている

 こうして、現場を助けるさまざまなツールを作っていった原さん。旅館の改装などにも携わり、ホテルの支配人として仕事を順調にこなしていたが、ここで原さんの考え方を大きく変える事件が起こった。2011年3月11日に発生した「東日本大震災」だ。

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