震災後は苦難の連続だった。帰宅が困難になった宿泊者への対応や、相次ぐキャンセル。計画停電時のオペレーションや福島から避難した人の受け入れ先に立候補するかといったことまで、さまざまな場面で重大な決断を迫られた。当時、取締役として経営陣に入っていた原さんは、ホテル経営の難しさを痛感したという。
「はっきり言ってしまえば、それまでは経営に対する覚悟が足りなかった。仕事をなめていたと言っても過言ではありません。エンジニアのころは億単位のプロジェクトに関わっていましたが、ホテルというのは1泊2食で、高くても数万円の世界。そこまで大きなプレッシャーを感じていなかったのですが、追い詰められた状況で、従業員を解雇するのかといった判断も含め、人の人生を左右するような決断を、自分なんかがしていいのかと悩んだこともありました」(原さん)
その後、経営への考え方が大きく変わり、原さんは社会人大学で経営を学び始めた。経営の考え方を理解するとともに、ホテルおかだにおける、IT活用の可能性を感じ始めたという。プロダクトありきだった視点が、“課題ありき”の視点に切り替わった瞬間だ。
「人や仕組みをうまく動かすマネジメントと、実際にお客さまに相対したときの活動とをスムーズに埋めるためのツールとして、ITに大きな可能性があると感じました。目的を達成するために、このデータとこのデータをつないで、こういうのが分かるようになったら、人の動き方ってこう変わりそうだよね、というアイデアがどんどん生まれるようになってきたんです」(原さん)
その後も、夕食の受付と部屋の布団敷きがうまく連携できるような通知ツールを作るなど、原さんはIT導入を進めていった。ただ、その目的は、徐々にホテル全体の経営に関わるものになっていく。その裏には旅行業界における、大きなビジネスモデルの変化があったという。(後編へ続く)
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