創業63年、箱根の老舗ホテルが人工知能を導入した理由【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/4 ページ)

» 2017年08月07日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

「キャンセル問題」にITで立ち向かう

 原さんによると、オンライン化が進んだことで、すさまじい勢いでキャンセル数が増えているという。ホテルおかだでも、この5年でキャンセル数が2倍近くになったそうだ。キャンセルが増えれば、機会損失はもちろん作業も増える。IT化に対応できなければ、文字通りの“経営危機”が待っている。

photo ホテルおかだにおける宿泊キャンセル数とキャンセル率の推移

 このキャンセル問題に対応するため、原さんは「Salesforce」を活用しようとしている。例えば「仮押さえの期限」だ。データに基づいて、仮押さえの期限をコントロールできれば、機会損失を最小化できる。紙を使って管理していたころは、全体像が把握できずに手が出せなかったが、今は業務フローの更新まで見据えて動き出しているところだという。

 「たとえキャンセルされてしまったとしても、早い段階で決まれば、その後新たに埋まる可能性が高まります。キャンセルを発生させない、または発生しても対処するという仕組みをWeb上で作らなければならないと思っています」(原さん)

 キャンセル数を減らすため、顧客のロイヤルティーを高めるのもITの出番だ。販売チャネルや客室タイプといった要素と、顧客満足度がどれだけ相関しているかといった分析も行っている。分析データはセルフBIツールの「Qlik Sense」で全て可視化。自分1人で使っているため、無料で済んでいるという。

photo Qlik Senseの画面。宿泊客に対するアンケート集計から、NPS(ネットプロモータースコア、顧客ロイヤルティーを数値化した指標)を算出している

 「多少価格が高くても、満足してもらえるにはどうすればいいか。売り上げや顧客満足度までひもづいているので、さまざまな角度からデータを見ることができます。次はマーケティング支援ツールの『Pardot』を入れて、データを連携させようとしています。ファンを増やすためのいろいろな施策ができるんじゃないかと楽しみです」(原さん)

老舗温泉旅館が人工知能を導入した理由

 そんな原さんが、最近手掛けたのが人工知能(機械学習)を搭載したFAQシステムだ。公式Webサイトの中で見ているページ(客室、温泉、宿泊プランなど)に合わせて、しばらく時間がたつと下部によく寄せられる質問が出てくる。アクセスされる頻度が高い情報を学習し、より目立つ場所に表示されるようになるという。

 技術的には簡素なシステムではあるが、UI(ユーザーインタフェース)にはこだわっている。この類のシステムは、チャットボット的なUIになることも多いが、それを避け、ページ下から飛び出す形式にした。

photo ページ下部から「よくある質問」が出てくる

 「旅行については、質問に対して少しでも曖昧な回答をしてしまうと、トラブルになる可能性があります。質問も回答も明確である必要があるんですよね。なので会話形式のUIは避けました。質問と回答をセットで伝え、さまざまな不安を解消できればと考えています」(原さん)

 導入にかかった期間は約4カ月。日本オラクルから、同様のシステムを提案されていた知り合いの旅館に誘われたのがきっかけという。過去に多かった問い合わせのデータを入力し、2017年5月に稼働を開始した。Webページからの予約も増え、ページへの訪問者も10%以上増えた。

 「電話で問い合わせができない時間帯をうまくカバーできるのが大きなメリットですね。うちは電話予約ができるのが19時までなのですが、4割くらいのお客さまはそれ以外の時間帯に予約をするので。あと、質問の検索履歴から分かる発見もあります。例えば『売店にパンツは売っているか』といった質問。電話では話しづらいと思いますが、団体旅行で会社から直行するような場合、分かると便利ですよね」(原さん)

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