もう、「パスワードを覚える」のは諦めませんか?半径300メートルのIT(2/2 ページ)

» 2017年10月11日 11時00分 公開
[宮田健ITmedia]
前のページへ 1|2       

パスワードとの付き合い方を変えよう

 パスワードを諦める――といっても、これはネガティブな話ではありません。私が皆さんに提言したいのは、パスワードを自分の頭で覚えることを諦め、「IT」の力を使うということです。

 まだ一般的なものではありませんが、「パスワード管理ソフト」というジャンルのアプリがあります。これは、あなたに代わって「サービスのパスワードをきっちり覚えてくれる」サービスです。既に皆さんも、Webブラウザに内蔵されたパスワード管理ツールを活用したことがあるかもしれません。macOSならばOSの機能として「キーチェーン」がありますし、Android、iOSも同様にパスワードを勝手に管理してくれます。これを活用すれば、極論すると「個別のパスワードは覚えておかなくても、マスターになるパスワードを覚えればいい」ということになります。OS側のロックを行うパスワードこそが、ただ1つだけ覚えるべき最後のパスワードです。

 私は市販の「1Password」を活用しています。このサービスの便利なところは、iOS、Android、Windows、macOSを横断して管理ができること。パスワードだけでなく、マイナンバーカード画像やパスポート画像もまとめて管理できるので、覚えておかなければならない情報は全て1Passwordに入れるようにしています。

 ここまでは「大事なメモを書く手帳」がデジタルになったと考えればいいでしょう。それ以上にパスワード管理ソフトが便利なのは、“今、自分が管理すべきアカウントがどのような状況にあるか”が一目で分かることです。例えば1Passwordには「Watchover」という機能があります。これは、前述した米Yahoo!のように、情報漏えいを起こしたサービスがあれば、パスワードを変えるようにアラートを出してくれる機能です。

Photo 1Passwordの「Watchover」

 このWatchover機能により、情報漏えいが明らかになったアカウントに関して、パスワードを変えるよう指示が表示されます。さらに、自分が管理しているアカウントのうち「パスワードが弱いアカウント」、使い回しにより「重複するパスワード」も一目瞭然です。アカウント情報を変更していない期間でグルーピングもできるので、やろうとすればパスワードの定期変更も可能です(Watchoverがあるため、その行為は無意味になってしまいますが……)。

Photo 1Passwordの「Watchover」対象となったアカウント。右下を見ると、私にも使い回しが400件弱あります……

覚えることを諦めれば、パスワードは超強力にできる

 そしてもっと重要なのは、このようなツールを信頼すれば、個別のパスワードを全く覚える必要がなくなるという点です。これまでは「強いパスワードの作り方を覚える」必要がありましたが、もはや自分でも読めない、記憶できないほどの桁数で、数字、文字、記号の全てを使った「Z4ovNYaxVN*@ZPwHcrTTjt8m」というようなパスワードを、パスワードジェネレーターで作り、登録すればいいのです。

 これならば、情報漏えい事件が起きたとしても他のサービスに影響が及ぶことはなく、「パスワードリスト型攻撃」対策が完了します。もちろん、そんなことを人間の頭で行うのは不可能なので、これこそが、パスワードに対する解決策になるのかもしれません。

 1Passwordのほかにも、「LastPass」や「KeePass」などのツールが登場しています。基本的には英語で、有料のものも多いですが、それだけの価値があると私は思っています。私は家族向けの「1Password for Families」を月5ドルほどで契約しており、家族にも使ってもらっています。ITに疎い我が家には最初こそハードルが高かったものの、使い始めると利便性が勝ることを分かってくれたようです。

 「パスワードを使い回すな」というセキュリティ対策は、“根性論で頑張る”のではなくパスワード管理ソフトを使って解決すべきです。このコラムをきっかけに、1日も早く皆さんも「パスワードを“自力で”覚えることを諦めてほしい」と思っています。

著者紹介:宮田健(みやた・たけし)

デジタルの作法 『デジタルの作法』

元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。

筆者より:

2015年2月10日に本連載をまとめた書籍『デジタルの作法〜1億総スマホ時代のセキュリティ講座』が発売されました。

これまでの記事をスマートフォン、セキュリティ、ソーシャルメディア、クラウド&PCの4章に再構成し、新たに書き下ろしも追加しています。セキュリティに詳しくない“普通の方々”へ届くことを目的とした連載ですので、書籍の形になったのは個人的にも本当にありがたいことです。皆さんのご家族や知り合いのうち「ネットで記事を読まない方」に届けばうれしいです。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ