AIやビッグデータを使ったサービス開発で最大17%の節税も 「中小企業等経営強化法」活用のススメ目からうろこの行政サポート活用術(1/2 ページ)

中小企業の研究開発を支援する税制や省庁主導の補助金制度を使わない手はない。企業の研究開発のコストが節税対象になる「研究開発税制」と、中小企業の技術開発を支援する「中小企業技術革新制度(SBIR制度)」について紹介する。

» 2017年11月28日 07時00分 公開
[発注ナビ]

 最近、ICT関連の研究開発にかかった費用に対する節税対策が、とても有利になったのをご存じだろうか。

 従来、研究開発税制の節税対象だったのは「製品の製造」「技術の改良、考案または発明」など、いささか製造業務寄りの色合いが強かった。しかし、2016年に一新された税制では、ICT関連が大幅に見直され、AIやビッグデータなどを活用した新たなサービス開発のための費用も税額控除が認められるようになったのだ。

官民一致で研究開発投資の対GDP比4%を目指す

 「官民が一致協力して日本全体で研究開発投資の対GDP比4%(政府1%、民間3%)を目指す」――。これは、2017年(平成29年)4月21日、第29回総合科学技術・イノベーション会議における安倍総理の宣言だ。現在、政府は2020年(平成32年)にはGDP600兆円を目指しており、それで換算すると4%は24兆円にあたる。

 「24兆円=2000億円」は2020年の目標値だが、2015年の総額では米国(5000億ドル)、中国(4000億ドル)に次ぐ3位(1700億ドル)、対GDP比では韓国(4.23%)に次ぐ2位(3.49%)であり、世界的に見ても上位に位置する。そんな中で「さらに研究開発費を増やす」と明言するのは、開発投資を増やすことが国力の底上げにつながるからだ。

 現在の数字だけを見ると、日本もそれなりの数字に見えるが、世界と比べると伸び率が違う。ここ10年で見ると、米国は3500億ドルから5000億ドル(43%アップ)、中国は1000億ドルから4000億ドル(400%アップ)と、開発投資費用の伸び率が大きく、伸び率と国力の向上が比例しているといえる。

Photo 主要国の研究開発費総額の推移(出典:経済産業省「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向−主要指標と調査データ− 第17.1版」)

「研究開発税制」の拡充で中小企業向けに2つの税制メリット

 「開発費を増やしましょう!」という掛け声に応えてもらうために、国が中小企業向けに用意した施策はいろいろあるが、ここでIT関連企業に注目してほしいのが、2017年からの税制改革に含まれている「研究開発税制の拡充」だ。

 このメリットは、2つある。

  • 「ビッグデータ等を活用した第4次産業革命型の『サービス』の開発費」が節税の対象に追加されたこと
  • 開発費に関する税削除の割合が、ルールを満たせば、従来の12%から最大17%にアップしたこと

 それぞれを詳細に説明しよう。なお、政府発表の文章では、いわゆる開発費を「試験研究費」と称しているが、本記事では、なじみのある「開発費」で統一する。

1. 第4次産業革命型のサービス開発費が節税の対象に

 今までも研究や開発費に関する税金削除はあったが、「モノ」「技術」が対象だったのに対し、今回からは第4次産業革命型の「サービス」も対象になった。

Photo 研究開発税制の支援対象となるサービス開発について(出典:経済産業省「経済産業関係 平成29年度税制改正について」)
Photo 研究開発税制の支援対象となるサービス開発の事例(出典:経済産業省「経済産業関係 平成29年度税制改正について」)

 上図に記載されている通り、第4次産業革命型のサービスには、ドローンで山地の地形や土砂、降雪状況を収集、分析する「自然災害予測サービス」や、ウェアラブルデバイスを使って個人の健康状態を細かく収集、分析し、健康維持支援を提供する「ヘルスケアサービス」などが含まれる。

 つまり、今後の日本経済を支えるサービスの開発費用も税削除の対象になったということだ。

 ちなみに、第4次産業革命とは、「インダストリー4.0」ともいわれ、「第1次産業革命」が水や蒸気を動力源とする機械生産、「第2次産業革命」が電気を活用した大量生産、「第3次産業革命」がコンピュータ制御による生産工程の自動化を指すように、製造業のデジタル化による最適化を指す。工場を中心に、あらゆるものがインターネットにつながることを想定しており、IoTと重なる部分が多い。

2. 開発費に関する税削除の割合が最大17%にアップ

 そして税削除の割合は最大5%アップした。こちらはICTや第4次産業革命型のサービスだけでなく、従来型の開発費も対象になっている。

 なお、計算には少し注意が必要だ。具体的には以下の計算式になる。

開発費(試験研究費)の増加割合が5%を超える場合の控除率:

12%+(増加割合−5%)×0.3

※ただし、税額控除率の上限は17%


 12%は、もともとあった開発費に対する削除の割合。もし年間の開発費が100万円だったら、12万円が減税される。

 今回変わったのはその後で、開発費を増やした企業は増やした率によって減税が増える。例えば、次の年に開発費が120万円に増えたら、増加割合は20%になる。これを上記の式に当てはめると、「12%+(20−5%)×0.3=16.5%」となり、減税額は19.8万円に増える(この減税額は、その時の法人税額の25%が限度。25%以上は減税にならない)。

 ちなみに、市販向けのソフトウェア開発は、「ソフトウェアという製品の開発、改良であるため、通常開発費に含まれる」とする考えもある。ソフト開発が業務の人は、この機会に「わが社も節税できないか」を検討してみてはいかがだろうか。

 なお、減税は、申請してはじめて対象になる。控除対象になるだろう開発費の額と控除を受ける金額を確定申告書などに記載し、明細書を添付して申請する必要がある。

 ただ、開発費はどこまでが開発費といえるかの判断が難しい面もある。基本的にソフト開発は人件費だが、その作業をソフト開発に当てれば開発費になるわけだ。

 人件費であり、かつ開発費でもあるのだから、普段から人件費を入力する際に「これは開発費である」ことが分かる記載を併記するようにしておきたい。このあたりは自社の経理処理を会計士と相談して、見直しつつ明確にしておこう。

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