「新卒の8割が辞めていく」 そんな企業を激変させた“新しい組織の形”(3/3 ページ)

» 2017年12月25日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]
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やる気ある者が“全社のために貢献できる場づくり”を目指す

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 柴田氏はなぜ、上下関係のないフラットな組織を志向したのか。同氏は理由の1つとして、自身の原体験を挙げる。

 「大学時代に裏部長みたいなことをしていたテニスサークルは、“楽しい組織だからみんなが居着く”ところだったんです。組織とはそういうものだと思っていました。他にも、バイトをしていたテレビ局の人たちや、自分で建築設計事務所をやっていた父親を見て、仕事というのはそれぞれのやりたいことやビジョンを持って取り組むものだというイメージがあったんですね。

 ところが、最初に就職した商社で配属された部署は、『指定された仕入れ先から指定された卸先に売れば利益が出る』事業だったので、考えることがないんです。上から言われた通りにやるのが仕事で、何か提案をしても聞いてもらえない状況に、ものすごく違和感を覚えました。その反動もあって、自分で組織を作るなら、意欲や能力のある人が存分に価値を発揮できる場にしたい、という思いがすごく強かったんです」

 フラットな組織を目指したもう1つの理由には、事業上の特性もあると柴田氏は言う。

 「われわれが手掛けている決済の事業は、一部の部門で判断したことが『全体』に影響を及ぼしてしまうので、物事を考える上では全体を俯瞰することが欠かせません。最初のうちは、僕が全部把握して1人で判断すればよかったのですが、規模が大きくなるとそれが難しくなるので、“それぞれの現場が全体のことを考えながら仕事をできるようにする”必要があったんです」

 部分の判断を誤ると全体に影響を及ぼすというのは、例えば、営業は数字を上げるために顧客の無理な要望も受け入れてしまうが、それがサービス開発や運営のリスクを高めてしまい、結果として引き起こされたトラブルのしわ寄せがカスタマーサービスに行く――というようなことだ。

 こうならないために必要なのが、組織への貢献意欲と全体を俯瞰して見られる優秀さを兼ね備えた人材だ。

 「僕らは採用力の強い会社ではなかったので、“意欲や能力があって、素直で従順”というような『大企業が一番欲しがる人材』は、なかなか採用できなかったんですよね。そこで、意欲や能力があって、ある意味生意気な、自走したがる層を採用しようと考えたのです。そして、彼らが望むマネジメントスタイルは、『自走したいから放っておいてくれ』というものなのです。そうなると、マネジャーの“管理”という役割を減らしていかなければ、彼らを生かすことができません。そんな必然性もあって、今の形にたどりついたんです」

組織を変えたいと思ったときに、まずやるべきこと

 柴田氏は、採用において優秀さや自走したがる気質などを重視しているが、必ずしも「コミュニケーション力が高い」とか「アピール上手」であることは求めていない。

 そのため、最終面接では柴田氏が一人ひとりと時間をかけてじっくり話し、相手への理解を深めている。取材に同席した、新卒入社で広報担当の及川さんは、自称「面接ベタ」だが、最終面接で自身も気付かなかった魅力を柴田氏から引き出されたことをきっかけに、入社を決めたそうだ。

 「とにかくいろいろと聞いていたら、最後の最後にやっと、すごくいい経験をしてきた話が出てきたんですよ。『お前すごいじゃん! どうして先に言わないんだよ』という感じでしたね(笑)」(柴田氏)。


 「もっと個人が力を発揮できる組織にしたい」「一体感のあるチームを作りたい」「疲弊した現場を変えたい」「若手の流出をくい止めたい」――。世の管理職の悩みはつきないが、柴田氏はこうした課題に直面している人に、「全力で話を聞くこと」を勧める。

 「上下関係があると、どうしても下の人の話を聞かなくなるんです。せっかく何か提案しようとしていても、途中で『いやいや、もういいから。こう決まってるから』と。そうすると、下の人たちは『聞いてもらえない、理解してもらえない』と不満がたまりますよね。

 ここでしっかり話を聞いて、不満や改善の提案をきちんと受け止めてみると、いろいろなことが見えてきて、自分や組織のやり方を、今までとは変えていかざるを得なくなっていることが分かるはずです。場合によっては、めちゃくちゃなことを言ってくる人もいるかもしれないけれど、その言葉の裏には何があるのか、どうしてそう言っているのかを考えてみることです」(柴田氏)

 いわばマイナスの状態から事業を立ち上げるという修羅場をくぐり抜けてきた柴田氏が、まだ経験の浅い新人の話を真摯に聞く――。それが言葉だけのポーズではないからこそ、元気な若者たちが集まり、活躍する今の組織があるのだろう。

Photo ネットプロテクションズが考える「若者に選ばれる会社に必要な要素」

【聞き手:後藤祥子、やつづかえり】

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