部署のメンバーを若手だけにする――。大企業の組織という点で考えれば、相当思い切った決断だろう。その意図について、山田さんは次のように語る。
「若いメンバーの気持ちというのは、環境によって大きく変わるものだと思っています。会社に入って初めてプログラミングに触れる人もいるので、最初は思うようにいかなくて、嫌になることもあるでしょう。しかし、楽しくないとモノを作ろうという気持ちにはなりません。そのため、いかに楽しくできるかということを優先して考えました。
はっきり言ってしまえば、上がいない方が若手はのびのびとやれますよね(笑)。その組織の中で一番上になれば、自分たちがリーダーだという意識も芽生えます。同世代同士だからこそ、みんなが頑張っているから自分もやろう、と思うのではないでしょうか」(山田さん)
今では毎年、新入社員の3分の1程度がこの部署に配属される。中間層がいないと、教育や管理が大変ではないのか? という問いに、山田さんは「私は時々『しっかりやれよ』と言うくらいで、先輩が後輩をちゃんと育ててくれています。技術的なところは、どこの部署に行っても負けないレベルです」と胸を張った。
2年目になれば新人の研修を担当し、3年目からはチームリーダーとして頼られる存在になる。教える方はさらに深く学び、教わる方も分からないことを聞きやすいなど、年齢が近いからこそ、萎縮せずに切磋琢磨(せっさたくま)し合う環境ができているようだ。
現在3年目の松谷夏奈子さんは、入社前はPCが苦手な文系学生だった。しかし「これからはPCができないと困る」とあえてエンジニア職を希望した。配属前後の研修では常に「落ちこぼれ」、プログラミングの初歩の初歩である“引数”や“戻り値”の概念も理解できず……という状態だったが、業務で先輩2人とアプリケーションを作ることになり、分からないことを聞き続けているうちに「分かった!」という瞬間が訪れたそうだ。
同じく文系出身で2年目の斎喜沙南さんは、自分で調べて分からないことがあれば、その分野についてよく知っている先輩に聞きに行く。
「部内の誰が、何を得意としているかというのは大体分かります。分からないときでも誰かに聞いてみれば、『それは○○さんが得意だから聞いてみるといいよ』と教えてもらえます。皆さん仲が良いので、お互いのこともよく知っているんです」(斎喜さん)
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