大阪ガスでは、ガス機器の故障予知などに機械学習による予測モデルを用いているが、故障予知に基づいて実際に動くのは、現場の整備士だ。機械学習(人工知能)で導かれた結論に基づいてスムーズに人が動いてくれるかといえば、そうではない。現場担当者と話を重ねる中で、河本さんは、人が動くのは、予測に納得したときではなく、覚悟を決めたときなのだと気付いた。
「既存のデータを基に分析を行うという意味で、機械学習による予測に100%はありません。どうしても未知のパターンが出れば外れてしまいます。整備士の人たちが求めているのは、何より『判断を信じるに値するか』という点。仮に予測が外れたときに、お客さまに頭を下げるのは整備士であって、われわれではありません。そのためには、彼らが理解しやすい根拠を示すのは、大きなメリットがあります」(河本さん)
予測モデルの根拠を完全に説明するのは難しい。不可能と言ってもいいだろう。しかし、「○○や△△が関係しているようだ」というように、故障と判断した理由の一部でも想像できれば、納得感も高まるし、説明責任を果たせると思ってもらいやすくなる。河本さんは、多少精度が落ちたとしても、現場に納得してもらいやすいような、シンプルな予測モデルを選択するようにしているという。
大阪ガスでは、DataRobotをメンテナンス業務のほか、マーケティングなどにも使っており、新規事業開拓のためにも活用し始めている。予測モデルの作成にかかる時間が短くなったことで、「手持ちのデータを取りあえず分析する」といった“宝探し”のような動きができるようになったためだ。河本さんは「思いがけないような分析結果が、新規事業のアイデアにつながることに期待している」と話す。
最近では、DataRobotが「教師なし学習」にも対応したことで、さらに分析の幅が広がったという。正常な状態を学習させ、それ以外のケースでアラートを出す「異常監視」のほか、先ほど挙げた“宝探し”のような分析にも有効だ。同社では、ビジネスアナリシスセンターのメンバーだけではなく、分析のレベルを高めたい現場のスタッフにも使い方を教え始めているそうだ。
あらゆる分析手法を総当たりのような形で試せるDataRobotは、数々の分析手法を理解し、選択するというデータサイエンティストの価値を奪うような一面もある。しかし、河本さんはむしろ、データサイエンティストは今後忙しくなると考えているようだ。
「データサイエンティストの仕事を肩代わりしてくれるでしょうし、事業部で機械学習が浸透すれば、むしろ仕事の機会は増えるでしょう。究極的には、アルゴリズムかできる仕事というのは、全てIT化されていくのだと考えています」(河本さん)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.