熱意ある情シスが組織を変える、まずはITで“風穴”をあけろ――LIXIL CIOの小和瀬浩之氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(4/4 ページ)

» 2018年03月30日 08時00分 公開
[伊藤真美ITmedia]
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熱意ある能動的なITが停滞した組織を変える

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長谷川: ちなみに瀬戸さんにはお会いしたことがないのですが、どんな方なんですか。

小和瀬: ご存じかと思いますが、もとは住友商事でアントレプレナーのプロとして活躍し、その後はMonotaROの社長をされています。MonotaRO時代のお話を伺うと、設立当初は人材確保だけでも大変だったようですね。現在、MonotaROはEC業界で目立つ存在になっていますが、相当苦労してスタートアップされたようです。それだけに、とにかく現場主義で、財務諸表が悪くても「それが今のうちの実力だ」って動じない。ITにもすごく詳しいですね。

長谷川: そういえばMonotaROの執行役 IT部門長だった安井さんには何度かお会いしたことがあります。今、あの方もLIXILに入られて、40代になったばかりですよね。

小和瀬: ええ、理事であり、マーケティング本部 デジタルテクノロジーセンター センター長で、瀬戸さんの住商時代からの右腕であるCDOの金澤さんとも同年代で仲がいいんです。2人ともとても熱意がある方だし、一緒になっていい会社にしていきたいと思いますね。私も彼らも「ITで風穴は空けられる」と信じていると思います。とはいえ、カルチャーを変えないとならないし、問題は山積みですが。

 だから、長谷川さんがいろいろと斬新な取り組みをされていると伺うと大いに刺激になります。

長谷川: いや、もともとは東急ハンズの社内システム自体をクラウドサービス化したいと思っているんです。通常、企業は拠点からデータセンターまでVPNなどでネットワーク構築していますが、G-SuiteにVPNを張ってないじゃないですか。そうすると、各店舗からクラウド上の業務システムを利用するなら、VPNでなくてもいいんじゃないかと。あと回線を1つに集めるとスループットが集中して太い線をひく必要があるし、ボトルネックになってリスクも高い。かといって各拠点に、IPS、IDS(不正侵入検知・防御システム)を全部入れるのはコストが厳しいなと。それで信用のおけるところには各拠点から直でつないで、それ以外のどこにつながるか分からない部分にはIPS、IDSを入れればいいと、そんなふうに考えたわけです。

小和瀬: なんだかセキュリティの話をすると、どんどん過剰防衛というか、複雑になっていますよね。でも、たぶん目指すべきそこじゃないような気がしています。

長谷川: そうですね、セキュリティ対策には、終わりはないですけど、私の考えは、SaaSなどインターネット上のサービスを業務で使うのであれば、インターネット接続を前提とした全体設計をしていかないといけないと思っています。ちょっと乱暴ですが、LAN/WANがない方がいいんじゃないかと。「Google Chrome」で業務システムを全て動かせるようにしていこうと考えているところです。

小和瀬: それは面白そうですね。ただChromeは予告なしにバージョンアップされるのがきついかなあ。突然システムが動かなくなる可能性があるので。ただ、これまでは「オフィスで仕事をする」のが普通でしたけど、これからどこでも仕事ができるようになる時代にあって、閉域網でFirewallを入れて“ここだけはキレイな世界”なんていうのをつくってもなあ……って私も思います。今後は1つ1つのコンテンツを守る仕組みができて、ネットワークはオープンというような方向に進むのではないでしょうか。

長谷川: 私もそんな気がしています。先日、某大企業のセキュリティ担当の方に、IPS/IDSの話を伺ったら、「IPS、IDSを導入すると、逆に、データが出ているのが分かるだけで、防げるわけではない(笑)」というような話をされていて、やはり、古い資産(サポート切れはもちろんのこと)がネットワーク上にあると、ダメなんだなと思いました。

 ちなみに、私はソフトウェアの最新化が、大好きなんですよ。新入社員の時はWindows PCも毎日アップデートのボタンを押してから仕事をしていましたし、今もMacOS、Chromeは1日数回アップデートボタンを押してしまいます(笑)。毎回目立つ改善はないんですが、アップデートされていると「なんかよくなってる〜」みたいな気がするんですよね。

業務改革の要は組織改革

小和瀬: 実は花王も自分で何でも作っていましたね。情シス部門だけでなく、製品も独自性を重視していました。当時は外から持ってきた製品は「ニベア」ブランドくらいでしたよ。システムも「バーティカルインテグレーション」を信条としていて、それを私たち情シスの強みと捉えていました。

長谷川: そもそも、自分たちのコアになるシステムを買ってくる情シス部門って、単なる購買部じゃないですか。

小和瀬: そうなんですよね。自分でやらないでどうするつもりなんだと。技術者なのに要件定義しかしないという人とか、何が楽しいのかと。でも、花王は自前で作るからこそIT予算が少なかったんですよ。システムを作った後の検収に時間をかけていたから、そこがボトルネックになってしまって。でも、使わない、使えないシステムなんていらないですからね。

 LIXILでも今は、例えば「Salesforce」の資格もガンガン取らせて、コンサルがいなくても自分たちでどんどん作れるようにしているんです。C#を標準にして、コーディングも自分たちでどんどんできるようにしたいんですよね。新入社員にも研修期間中にダミーではなくて、本当のシステムを作らせたんです。やっぱりシステムは「使われてなんぼ」ですからね。

長谷川: そうなんですよね。どうしてもシステムって失敗すると大ブーイングで、動いて当然みたいなところがあるから萎縮してしまいますけど、そのリカバリーで経験値が上がっていくわけですから。

小和瀬: 将棋棋士の藤井聡太くんも、あの強さは細かいミスや間違いをし続けて、それをどんどんリカバリーできるからという話ですよね。AIだってトライアルアンドエラーで賢くなる。会社が傾くような失敗は困りますが、小さな失敗がどんどんできて、リカバリーできる環境をつくるのは上司の役割だと思いますね。

長谷川: 失敗が怖くないなら挑戦もしやすいですからね。

小和瀬: もうね、失敗しながらも成功に到達する喜びは、一度味わうとやみつきですからね(笑)。もちろんすんなり進んでくれるのが一番ですが、難しくて成果が上がるものほど失敗しないわけがないですから。それはもうドラマと変わらない。日曜9時の「下町ロケット」とか、もうたまらないですね。

長谷川: あの枠ですよね。いつも見て、胸を熱くしていますよ。

小和瀬: あえて大変な道を歩く、その喜びを若い世代にも知ってもらいたいと思いますね。

長谷川: いいですね、ぜひうちと合同ハッカソンやりませんか。技術を競うというより、発想を楽しんだり、外部の人と触れ合ったりというのが主目的で、いわばお祭りなのですが。案外、研修に行くより、お互いに刺激し合って、気付きがあるようなんですよ。

小和瀬: ぜひ、やりたいですね。よろしくお願いします。

長谷川: 近いうちに実現させましょう。今日はありがとうございました。

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LIXIL CIO 兼 情報システム本部長 小和瀬浩之氏プロフィール

1963年11月埼玉県生まれ。1986年に早稲田大学理工学部を卒業後、花王株式会社入社。システム開発部にて、国内流通システムや海外関連会社システムなど構築を担当。1995年より、タイ花王に出向し、ITディレクターとして基幹系システムなど業務改善を推進。2000年より花王グループの業務標準化と業務改善に従事し、2004年に同社情報システム部門グローバルビジネスシンクロナイゼーション部部長、2012年10月に情報システム部門統括に就任。2014年1月より、株式会社LIXILに入社。執行役員 IT推進本部本部長となり、2015年12月より上席執行役員 CIO兼IT情報システム本部本部長。2016年7月より理事CIO兼 情報システム本部本部長(現職)に就任。


ハンズラボ CEO 長谷川秀樹氏プロフィール

1994年、アクセンチュア株式会社に入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年、株式会社東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、Twitter、Facebook、コレカモネットなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進している。2011年、同社、執行役員に昇進。2013年、ハンズラボを立ち上げ、代表取締役社長に就任。(東急ハンズの執行役員と兼任AWSの企業向けユーザー会(E-JAWS)のコミッティーメンバーでもある。


【取材・執筆:伊藤真美】

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