「一度開発して10年塩漬け」は過去の話に アジャイルを加速させる「超高速開発」本当はうさんくさくない、超高速開発のリアル(3/4 ページ)

» 2018年04月10日 12時00分 公開

SEの仕事はどう変わるのか

 それでは、現場のSEの仕事はどのように変わるのでしょうか。

 一言で表すと、「SEが本来やるべき当たり前の仕事に戻る」ことになります。具体的にみていきましょう。

 超高速開発そのものは、業種や業態、対象規模を限定しませんが、大規模システムを少人数で開発できるという特徴があります。そのため、多くの開発者を抱えることによるコミュニケーションコスト(いわゆる伝言ゲーム)の削減という効果があります。この少人数開発を支えるために、重複したコードを書かないようになります。

 実際、多くの大規模開発は、サブシステム単位で実装するという悪しき慣習によって、似たようなテーブルがサブシステムごとに用意され、似たようなコードがサブシステム間をコピペされて開発されるという問題がありました。これを避けるために不可欠なアプローチが「データモデリング中心」設計です。

 これはすでに、開発者にとって周知の設計手法ですが、いまだに普及していません。その理由はデータモデリングを行える人材育成に投資しなかったことにありますが、そもそもデータモデリングのメリットを体感できなかったことが真因ではなかったでしょうか。

 実はそのメリットは保守性の向上ですが、システム開発案件の発注側は初期投資金額の抑制ばかりに目が向いてしまい、その後の保守の重要性までを配慮することは難しかったのでしょう。

 超高速開発ツールと呼ばれる製品群は、まさにこの問題の解決に有効なものです。データモデリングの成果物である設計情報からのシステムの自動生成(または実行時に設計情報を読み込んで動的に処理を変える実行エンジン)というアプローチによって、開発の初期コストを劇的に削減できるようになりました。

 しかし、その真骨頂は保守性です。汎用的なプログラムコードの変更作業ではなく、設計情報の変更を主体としたシステム改修が行えるようになることで、保守コストも大きく削減できます。ここでいうコストとは、人の稼働時間のことですから結果的に金額も安くなり、開発スピードも上がります。

 SEは、現場の業務要件を設計情報として表現することが本来の仕事ですが、多くの大規模案件では、外注要員のスケジュール管理に割かれているのが現状です。少人数開発によって外注管理業務そのものがなくなるため、SEは設計書の作成という本来の業務に集中できるようになります。もちろんこの変化によって、システム開発の悪弊であった「多重下請けピラミッド構造」は崩壊します。

 自動化とは、省力化のことに他なりません。そして私は、IT業界にとっては、その方向性が正しいと考えています。

Photo

 一方で、データモデリング技術者(データモデラー)は不足しています。さらに近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)というキーワードが脚光を浴びていることからも分るように、自社のビジネスモデルそのものをIT化する視野を持った人材が求められています。いわゆる上流設計という範囲にこのような新しい分野が含まれるようになったことは、多くの技術者にとって、やりがいを感じられる新たな挑戦になるはずです。

 今後は、「最新のIT機器やIT環境と自社業務を融合するアイデア」と「業務データモデリング」が、SEの仕事の中心となるでしょう。

 一方で、超高速開発を支える基盤を開発したり、その上で動作するカスタマイズコードを開発したりする技術者も、一定数は必要です。そう考えると、自動化によって開発者が余ってしまうというのは杞憂(きゆう)であり、むしろ、これまで何とか使ってきたエンタープライズシステムの保守業務を離れ、解体と再構築に携わる機会が増えることで、多忙になると思います。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ