自らの価値を測る「外のモノサシ」――それこそがコミュニティーの価値武闘派CIO友岡賢二のサムライ日記(2/2 ページ)

» 2018年05月30日 07時00分 公開
[友岡賢二ITmedia]
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コミュニティーがイノベーションを生む時代に

Photo 改革の象徴的存在といわれる坂本龍馬も高知県の出身

 今どきの新しいムーブメントのように見えるコミュニティーですが、実は、私が働き始めた30年ほど前は、会社がそのような場だったのだと思います。振り返ってみても、現場で改善を行う小集団の活動は、ボトムアップ型の提案に手を挙げた人がリーダーシップを取って運営するコミュニティーでした。

 その成果は社内に蓄積され、会社の競争力強化に寄与し、成果を上げたコミュニティーは会社からの表彰という形で評価されていました。イノベーションのゆりかごが企業の手にあった時代は、このような“知の循環サイクル”が機能していたのです。

 しかし今、個人と会社の関係は大きく変化しています。1つの会社を勤め上げる従来型のスタイルとは異なる副業や複業、キャリアアップ転職が登場し、働き方についても、都心の会社に所属しながら地方でフルリモートで働くようなことも珍しくなくなっています。

 ITの世界では、オープンソースの発展に見られるように、個人の志に基づくコミュニティーによって新たなイノベーションが数多く生み出されました。イノベーションのゆりかごが、会社から、個人を中心としたコミュニティーへと移っているように感じます。

 例えば今、「AWSの最新機能の使い方をどこで学ぶべきか」と聞かれたら、多くのエンジニアが「JAWS-UG(AWSのユーザーコミュニティー)!」と答えるでしょう。会社を飛び出してコミュニティーに参加し、コミュニティーから学び、学んだ内容をビジネスで即、実践し、その成果をビジネスでしっかり出すと同時にコミュニティーに還元して共通の知識とする――。これが現在の“コミュニティーを軸とした知の循環サイクル”だと思います。

コミュニティーを運営する上で重要な4つのポイント

 今回のイベントでは、コミュニティーを運営する上での重要なポイントについても多くの学びがありました。キーワードは次の4つです。

 1つ目は、あふれる九州愛で地方創生を目指すコミュニティーリーダー、村岡浩司さんが話していた「自分の持ち場」です。ちなみに村岡さんは、九州産の小麦や雑穀を使った地産のパンケーキミックス「九州パンケーキ」の仕掛け人として知られています。

 「地元創生のコミュニティーが街を元気にする」「東京が主体で全国の事例を横展開していく時代が終わり、その土地ならではの“ここにしかない、そこに行かなくては感じることのできない地元の価値”を武器に、産業を興していくことが大切」と訴える村岡さん。九州をご自身の持ち場として定め、そこでの求心力と対外的な発信力を高めています。

 「自分の持ち場」というのは言い換えると、自分のポジションを取ること。コミュニティー運営で重要なのは、自分たちのコミュニティーがどのポジションを取るのか、そして対外的に発信する際には、良い意味での「ポジショントーク」を行うことだと思います。コミュニティーの中心命題をしっかり定め、分かりやすい持ち場を提示し、その持ち場からしっかり発信し、持ち場を支え、そして発展させていくことが重要だと思うのです。

Photo #CLS高知がTwitter上のトレンドで1位を獲得

 2つ目のキーワードが小島さんが話していた「ラベリング」です。今回のイベントでは、”#CLS高知”というハッシュタグでラベリングを行い、参加者が一体となってSNS上で情報を発信しました。そしてなんと、Twitter上のトレンドで1位を獲得するという快挙を成し遂げたのです。

 イベントに参加していない高知在住の中高生までもが、「高知がトレンド入り!」という驚きと喜びのコメントをツイートしていたのが印象的でした。自分たちの起こしたうねりを外の人に認知してもらうには、こうしたラベリングが非常に有効です。

 そして今回のLT登壇者の多くが、「私の発表の時には#ちいクラを!」「私の発表では#MakikomiTigerを!」と、自身のハッシュタグ付きの投稿を依頼していました(私はもちろん#武闘派CIOです)。これらは全てラベリングであり、コミュニティーの対外的な認知を高めると同時に、現場から遠く離れたコミュニティーの仲間とリアルタイムで熱い現場感を共有するのに一役買っています。

 3つ目のキーワードが、登壇者の多くが口にしていた「巻き込み力」です。コミュニティーが多くの人の共感を得て自走していくためには、熱量を持ったメンバーを巻き込む力が必要。この巻き込む力の源泉は、誰よりも熱い「中心となるリーダー」の持つ熱量です。今回、登壇した多くのコミュニティーリーダーも、当初はコミュティーを遠くから眺める傍観者だった人が多く、自身のコミュニティーとの遭遇の瞬間を語る表現はさまざまです。「巻き込まれた」「感染した」「噛まれた」……。その熱量が発言の圧倒的な迫力につながり、周囲の人を突き動かしていくのです。

 4つ目のキーワードが、小島さんの言う「外のモノサシ」です。自分たちの活動を外のモノサシで測ると「まだまだよそに比べたら負けているな」と思うケースもありますが、実は自分たちが手にしている“宝の価値”を正当に評価できていないケースも少なくありません。

 例えば、高知の人にとっては当たり前の「カツオ」も、その1つ。朝、採れたばかりの新鮮なカツオをお昼に食べられる高知の日常は、私のような、よそから来た人間にとっては非日常です。しかも、それを地元の名産品が集結している屋台村「ひろめ市場」という、これまた格別な非日常空間で頂くわけですから、その体験は非日常の極みです。

Photo ひろめ市場と塩カツオ

 塩カツオを口にした瞬間の至福感は例えようのないもので、これを知らずして50年以上生きてきたこれまでの人生を悔いる瞬間でもありました。「高知の人、それ、早く言ってよ〜」という感じです。

 地方のコミュニティーに「外のモノサシ」を持った人が参加することの意味は、「自分たちが手にしている当たり前が、外の人たちにとっての当たり前ではなく、大きな価値を持つこと」に気付くことでもあると思うのです。

Photo 高知に”巻き込まれ”、カツオに”噛まれた”人たち(撮影:集合写真家 武市真拓)

 今回のイベントで高知に”巻き込まれ”、カツオに”噛まれた”人たちは、「カツオだって高知に戻ってくる」を合言葉に、さらに熱い仲間を巻き込んで、戻りガツオのように高知に戻ってくることでしょう。

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