テクノロジーは人間の能力をどこまで「拡張」できるか――超人スポーツ稲見氏と元アスリート為末氏が語る(2/5 ページ)

» 2018年06月28日 09時00分 公開
[柴田克己ITmedia]

先端技術による道具を使って世界記録更新、それは「ズルい」のか?

 スポーツにおける道具の「人を助ける」「人を鍛える」という2つの役割を踏まえると、特にパラリンピックにおいては、先端技術による道具を作れる力を持つ国と、そうではない国との格差が広がる可能性は否めない。為末氏は「そうした差は、パラリンピックに限らず、全てのスポーツにおいてこれまでも存在していた」と言う。

 陸上競技場やプールといった、競技施設が十分に整備されていない国は、競技のレベルを高める上では不利になる。そういった格差を減らす取り組みは、これまでも継続的に行われており、最新テクノロジーが経済力や技術力の格差を埋める形で機能しているケースもあるそうだ。

 例えば「陸上競技のアスリート向け義足」では、義足を選手の足に装着するソケット部分の形状は、選手によって異なる。これまでは、個々の選手に合わせて専門の職人が成形するしかなく、誰もが競技用の義足を入手できるわけではなかった。しかし、近年は、3Dプリンタなどを使ったソケットの成形も研究が進んでおり、「より多くの選手が、専用の競技用義足を手に入れやすくなる方向へと進みつつある」と為末氏。

photo

 とはいえ、義足を着けた選手の記録が、健常者に肉薄しているような状況で、義足による“アドバンテージ”の是非を問う声もある。

 走り幅跳びの場合、義足の選手は関節が少なくなるため、助走時の加速では健常者よりも不利になる一方で、ジャンプ時にはカーボンの弾性を助けとして、健常者よりも良い条件で跳ぶことができる。有利と不利、両方の側面があるということで、スポーツ界でも「現状はどちらとも言えないという意見が中心だが、義足がズルいというような声もないわけではない」(為末氏)という。

 「マーカス・レーム選手の練習を現地で見たが、彼の場合、健常者とは少し違うジャンプの仕方を会得しているように感じた。これまでパラリンピックは『健常者に追い付く』ことを目指していた部分があるのかもしれないが、将来的には、選手が道具への適応を進めながら、健常者とは違う走り方、跳び方を体得し、競い合うようになるのではないかと感じた」(為末氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ