テクノロジーは人間の能力をどこまで「拡張」できるか――超人スポーツ稲見氏と元アスリート為末氏が語る(4/5 ページ)

» 2018年06月28日 09時00分 公開
[柴田克己ITmedia]

人間の能力は「環境」で決まるものにすぎない

 その後、為末氏は「障がい者と健常者の違い」というテーマに話を進めた。

 例えば、100メートル走のような陸上短距離の世界では、一般的に自閉傾向のあるアスリートの方が高いパフォーマンスが出しやすいのではないか、との議論があるという。短距離走では外界のノイズとなる刺激をシャットアウトし、自らの走りに集中することが重要だからだ。一方で、自閉傾向のようなパーソナリティー特性は、チーム内での高いコミュニケーション能力が求められる球技などではデメリットとなってしまう。

 障がいに関連した別の例として、為末氏は、スキューバダイビングのように、音声でのコミュニケーションができないアクティビティーでは、聴覚障がい者(ろう者)と健常者のコミュニケーション能力に差がなくなることを挙げた。

 「結局、その人の才能や能力というのは、彼らが置かれた環境によって決まってしまう。健常者は、世の中の環境は全て同じという前提で物事を見がちだが、実際は違う。それぞれ異なる特性のある人が、自分が最も能力を発揮できる環境を見つけやすくするようなことが、技術革新によって可能になるだろうか?」(為末氏)

 これに対し、稲見氏は、その人の日常的な行動や好みなどが詳細なログデータとして記録、分析されることで、構造化によるレコメンドの精度は向上すると考えている。その一方で、システムによるレコメンドに「逆らう」ことも、人間の面白さではないかと話す。

 「データ分析によるレコメンドは、いわば『多少精度が高い占い』のようなもので、信じるか信じないかは本人の自由。むしろ、エンジニアであれば『自分が最も能力を発揮できそうな環境』を自ら作るという手もある。

 スキューバダイビングの例と同じように、テキストチャットが主たるコミュニケーション手段となるオンラインゲームやSNSなどでは、ろう者や対面でのコミュニケーションが困難な人でも支障はないだろう。今、一般に言われている『障がい』は、物理的な環境に依存したラベルにすぎない。人の活動領域がサイバー環境に広がることで、その定義も変わっていくはずだ」(稲見氏)

アクセシビリティー分野へのAI活用を進めるマイクロソフト

 セッションの後半では、日本マイクロソフトのプリンシパルアドバイザーである大島友子氏が、アクセシビリティーに対する同社の取り組みを紹介した。同社では、視覚や聴覚、運動能力などに障がいのある人のPC操作をサポートするため、Windowsに各種機能を実装しているという。

photo 日本マイクロソフトのプリンシパルアドバイザー 大島友子氏

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