潤は語りだす。
「俺の最初の職場は、沖縄のコールセンターだったんだ。コールセンターの地方ブームがあったらしく、札幌や沖縄に拠点がたくさんできた。沖縄で募集があったので、そこに勤めた。今、こうやって標準語を話せるのはそん時の経験があったからサー」
――最後のほうは方言が抜けてないわね、と、つたえは思った。
「休みの日にね、那覇の泊港から高速艇に乗って、ケラマ諸島に海水浴に行った。そしたらそのケラマ諸島の座間味島でダイビングしている深淵(しんえん)さんに会った。つまり、タンクを背負ってやるやつ? あれはだいたい1日2回くらい潜るらしいけど、夜はヒマ。ダイビングショップで酒を飲みながら夜更けまで駄弁っているのが毎日。深淵さん、会社では言葉少ないだろ。でも、ダイビングした後の夜はこれがまたよく話すんだぜ。人が変わるな」
――メイはへぇーという顔をしている。
「あと、深淵さんはフリーダイビングというのも好きみたいだ。タンクをしょってるやつは空気が切れたら終わりだけど、フリーダイビングはタンクを付けないので、体力の持つ限り1日遊んでいられるからな。それと泡の音がない分、無音状態で自然と一体化できるので、そっちのほうが好みだと言っていた」
――SOCルームが海の底みたいなのはそれと関係あるかも。そこから出たくないんだ、とつたえは勝手に想像した。
「夜、深淵さんと話しているうちに仕事の話に触れ、見極さんの話になった。それで俺は興味を持ったんだ」
――ふんふん。メイとつたえはうなずく。
「それで、こっちに来てみたらシステム運用部に配置された。そこには志路(しじ)さんと虎舞(とらぶる)さんがいた。志路さんはすごい。俺は虎舞さんに弟子入りして、少しでも志路さんに近づけるように頑張った」
――意外に熱いなとメイは思った。
「そんなさなか、志路さんがCSIRTのインシデントマネジャーになり、俺たちも一緒に異動した。ま、俺たち抜きにはインシデントハンドリングはできないからな。だから一刻も早く一人前になって、志路さんみたいに鮮やかにインシデントをさばきたいんだ」
――なんか妙に自信があるみたいだけど、目標を持っている男ってカッコイイな、と、つたえは思った。
「じゃ、お先に」
潤が席を外した。
――男はしゃべりながらも食事が早いな。私にはできないわ。つたえは感じた。
「私もメイ様みたいに早くなりたいと思います」
メイは頑張って、とだけつたえに声を掛け、食事を再開した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.