情シスもベンダーも“井の中の蛙”になるな、大海に出でよ!――ローソン システム基盤部の進藤広輔氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(3/4 ページ)

» 2018年08月31日 07時00分 公開
[須田ユキヒロITmedia]

「長谷川リスクプロジェクト」発動!?――システムへの不理解が闊歩

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長谷川: だけど、進藤さん、1人でやってこられて大変だったのでは? 僕なんかね、最近、「東急ハンズのシステムは長谷川が全部仕切ってて、仕様変更とかもあいつが何か言わないと何も動かないんじゃないか?」と思われたようで。「長谷川リスク=業務停止リスク」とかで調査があって。そんなわけないのに。

 「あと、自社開発でクラウドなんてやってるけど、大丈夫なのか」って。

進藤: すごいですね。そんな話になってるんですか。あ、でも、ローソンでも最近「なんで同業他社のサービスを使ってるんだ」という話がちょっとあったりしたんですよ。

長谷川: 特に大手の小売業には「敵に塩を送るのはどうなの?」という意識がまだあるんだよね。

進藤: なんていうか、純粋じゃないんですよね、システムに対して。そこがすごく歯がゆくて。別に僕はAWSが絶対とは考えていないので、「その時点で一番適しているのがAWSなだけですよ」って説明するんですけどね。あとずっと1人でやってたので、「進藤リスク」みたいな空気は若干漂っていたと思います。

長谷川: ああ、それはあるでしょうね。

進藤: 「すぐAWS、AWSっていうけど、ちゃんと比較検討したのか?」とかね。やっぱりあるんですよ。「比較検討」って。

長谷川: 比較する余地もないのにね。自明なんだから。

進藤: そうなんですよ。でも検討中の企業の経営者は「ホントに大丈夫か?」って思ってるんだから、AWSにはその辺ももうちょっとサポートしてほしいんですよね。

チャレンジには称賛を

進藤: なんていうか、結局のところ、いまだにシステムって「コスト」って認識なんですよね。これが「投資」という認識になるとだいぶ違うと思うんですけど。まだまだクラウドも浸透するには時間がかかる。僕に日本を語るほどの資格はないんですけど、「このスピードで大丈夫か」って思いますよね。

長谷川: そうだよね。俺、この6月に中国のリテール関連のイベントにも行ってきたんだけどね、4年振りだったけど様変わりしてて。支払いは電子マネーの「Alipay」や「WeChatPay」だし、「Amazon Go」と同じような無人店舗もあるしね。とりあえずやってみようというチャレンジ精神はすごいなって。しかも、そういう精神をAlibabaのような先進的な企業だけでなく、昔ながらのスーパーも持っているわけ。これは負けるよなあと思うんだよね。

進藤: そうなんですよね。ローソンも今スマホによる決済を実験的に始めているんですけど、中国の例とかも参考にしているんですよね。それならもう、プラットフォームがどうのこうのとか言わずに「これでいこうぜ!」でいいじゃんと思うんですよ。

長谷川: うん。日本人はよく中国のそういった取り組みに「まだまだ精度よくないし」とか言うんだけどさ、そう言っている日本に「そんなチャレンジする気概あるの?」っていう話でさ。ばかにするんじゃなくて、チャレンジを称賛する姿勢で「よし、俺たちも頑張ろう!」となぜならない? って思いますね。

進藤: やっぱり日本人ってしっかり考える文化があって、例えば、2択になっても最後の1つに絞るまで動かないんですよね。僕なんかはクラウドを使うにしてもスピードが最重要だから、「2択まで絞れているんだったら両方検討しろ!」とよく言うんです。1つに絞る材料を集めるくらいなら、その方がよっぽど早い。

 それに、日本人には最後まで完成させてからじゃないとリリースしない気質があるけど、完成したときには世界は次のステージに行っていて、すでに勝負の土俵にいないということが往々にしてある。そこに気付いてほしい。

長谷川: ソフトバンクの孫さんも「情報が7割しかないときにジャッジするのが経営者。9割そろってからのジャッジは平社員でもできる」とおっしゃってて。まったく同じ理屈ですよね。

くだらないベンダーをどうにかしたい

長谷川: 進藤さんにはそういうメッセージを出し続けてほしいですよね。普通のSA(ソリューションアーキテクト)でいくよりは、もともとユーザー企業にいたということで、やっぱりベンダーしか経験したことのない人が言うよりも伝わると思うから。

 AWS側とユーザー側のフラットな視点で普通に意見するとか、あるいはAWSの中からユーザー視点で批判しまくる急先鋒になるとか。その方がエンタープライズIT業界のためになると思いますよ。

進藤: そうですね。そういう形で少しでも力になれれば――。僕のようなユーザー企業出身の人間が入って実体験をベースに「お客さま目線」で会話ができるというのが、僕のメリットなんだろうな、と。

長谷川: うんうん。

進藤: AWSもAWSのパートナーベンダーもですが、営業に行っても、小売とか製造とか金融とか、それぞれの業種、会社を理解せず、AWSはこうだとサービスの説明だけして帰っちゃうことがけっこうあるみたいで。いやいや、小売業に営業かけるなら、まず小売を勉強しようよ、と。そういうのをAWSの中から言えるのは、何かのきっかけになるんじゃないかな。

長谷川: そういう部署を作ったらいいのにね。各業界のことを完全に理解している人を集めたような。

進藤: 実際、そういうところ期待されていると思っています。ユーザーが「AWSってイマイチ」と思ってるところを埋めていくとか。あと、“イケてない”ベンダーをどうにかしたい(笑)

長谷川: 俺もそう思う。そういうさ、ダーティなところは俺、やるから(笑)

進藤: (笑)

 そうそう、長谷川さん、マルチクラウドを提案してくるベンダーってどう思います? きちんと運用とかやっていると分かると思うんですけど、AWSだけでもきちんと運用しようとするとめちゃくちゃ大変じゃないですか。新機能や仕様変更が次々起こるし、それを定期的にキャッチアップしながら、自社のシステムではどうかを検証して、AWSのライフサイクルに必死でついていかなくちゃいけない。それと同時に、「Microsoft Azure」も同じようにやるなんてとても無理ですよね。

 ベンダーは選択肢を提示しているつもりなんだろうけど、ユーザーが良しあしを見極めるのは難しいし、結局ユーザーのためというよりも、ベンダーが商談を取りこぼさないように幅広く見せているだけに感じるんですよね。そういうポリシーのないマルチクラウドを提案してくるベンダーもどうにかしたい。

長谷川: 日本は、バランスをとるというか、極端な方向にいかない方針を出すところが多いもんね。

進藤: そもそも別のクラウド同士で同期なんて全く取れないのに、マルチクラウドを提案されると、上層部が「サービスがどれか急になくなったときに困るから、両方で動かしておきたい。うん、ここはマルチだな」とか、やっぱり言っちゃうわけですよ。“●ね”という話なんですよ。いくらかかると思ってるんだって。

長谷川: そうね、いまの“●ね”はフォント大・赤文字でお願いします。

――だいぶ大きいですね(笑)

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