なぜ、京王電鉄は「AIベンチャー」を立ち上げる必要性があったのか?【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/4 ページ)

» 2018年09月14日 07時00分 公開
[高木理紗ITmedia]

 作ったアプリをその場で見てもらい、会話をしながら修正することで、細かい要求にも柔軟かつ迅速に対応できるようになった。すると、現場に漂っていた「システム部門は何もしてくれない」という、半ば諦めにも似た意識が「次はこの問題を何とかしてくれるかも」という期待感へと変わっていった。とはいえ、そのようなアプローチに変えたことで、現場に戸惑いや反発はなかったのだろうか。

 「いきなり『業務やシステムを改革する』立場で臨むと、現場も『システムが、自分がやってきた仕事を奪っていくのでは』と警戒してしまうこともあるかもしれません。『改革』という言葉ではなく、『面倒な業務をシステムを使って業務を推進する』形で現場のサポートに徹したことで、受け入れてもらえたと考えています」(虻川さん)

 また、虻川さんは社内のIT戦略を1枚の図にまとめ、新システムの導入を進めるたび、戦略の中での役割を説明。社内に業務のシステム化への理解が定着していった。

京王バスでの「変革」がもたらしたもの

 現場の課題を、スピード感を持って変えていく――旧来あった、要件を確定させてから開発を進めるウオーターフォール型ではなく、細かい要求に対応しながら開発を進めるアジャイル型に近いアプローチによって、京王バスのIT環境は急速に変わっていった。

 私営の交通機関としては非常に早い段階で、全ての路線バスに無線LANを設置。これまで“コストセンター”と思われていたシステム部門がビジネスに寄与するようになったことで、社内での立場も一変した。

 また、こうした改革は、ITを使った京王グループの取り組みを社内だけでなく社外の人たちにも知ってもらうための活動にもつながった。同業他社のIT部門や事業部門から、システム化や業務改革の相談を受けることもあったという。

photo 「ハイウェイバスドットコム」の画面

 京王バスでは、高速バス予約システム「SRS」を構築し、2000年からインターネット予約サイト「ハイウェイバスドットコム」の運営も始めている。2016年3月には、システムをAWSへ全面移行。コストを抑えながら、災害への耐性を向上させ、繁忙期でもパフォーマンス低下を防げるようにしたという。

 「SRSの導入をご検討いただいた他のバス会社の幹部から『なぜ京王の作ったシステムを導入するの? 京王ってIT進んでたっけ?』と社内で言われたと聞いたことがきっかけで、今まで断っていた取材や社外のイベントで積極的に話すようになりました。京王のITを安心してお使いいただきたいという思いが最大の理由ですが、そこでさまざまな人たちと交流することで、新たな知識や刺激をもらえたのも良かったですね」(虻川さん)

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