日本企業は今こそ、手を組んでチャレンジに打って出るべき――カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(2/4 ページ)

» 2018年09月16日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

「自分に影響を与える50人に会う」という“自己ノルマ”でIT業界を学ぶ

長谷川: 小売業としての歴史の話ですが、東急ハンズの場合、やっぱりインターネットが出てきたのが1つの転機になっているんですけど、カインズさんにとって、そういうターニングポイントはどこにありましたか?

土屋: 実は、僕個人の感覚で言うと2017年です。やっぱりAWS re:Inventの影響が大きくて。

長谷川: そうなんですか!?

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土屋: 個人的には、ですよ。もちろん現代の企業でインターネットを使わないところはほとんどないわけですが、その度合いとして、「どうせやるんだったら、イノベーションを起こすようなところを目指そう」という思いが出てきたのは2017年で、それが2018年の「IT企業宣言」につながったわけです。

長谷川: なるほど。re:Inventに行こうと思ったきっかけは?

土屋: 野村證券時代に身に付けた癖なんですけど、僕はノルマを決めるのが好きなんです。毎年、「年間で1000キロ走ろう」とか、「映画を何十本観よう」といったノルマを決めて、それを超えることで、あるべき自分に近づけたかな、と思えるので。

 それで2017年は、50歳を過ぎたということもあって、新しいことにチャレンジしようと思い、「自分に影響を与える50人に会おう」と決めたんです。

長谷川: 面白いですね。

土屋: 50人ということは、だいたい1週間に1人会っていればいいわけです。何とかなると思っていましたが、年の後半にきて「このままじゃ50人いかないな」と分かってきて……。何とか増やすには、既に知っている人たちの集まりに行っても増えない。

 それで、全然知らないIT系の集まりに行けば増えるに違いないということで、後半はIT系の人たちばかりに会いました。そうすると、相手によってちょっとずつ言うことが違ったりして、正直すごく混乱しています。でも1年前は混乱どころか知りもしなかったわけですから、すごく楽しいんですよ。

長谷川: なるほど。ノルマを決めたことで新しい学びがあって、それが会社の方にも影響しているということなんですね。

土屋: もちろん、以前からうっすらとITのことは気になってはいたんですよ。知らないままCEOヅラしていていいのか? という漠然とした不安があった。たくさん人に会って、それが確証に変わったという感じですね。当社はもちろんですが、日本としてこんなのでいいの? という思いが強くなりました。

創業者の目が届かないところだから、自分好みに采配できた

長谷川: 土屋さんは、偉ぶらないというか、会話をしていても、相手が誰であってもフラットにコミュニケーションされている印象ですけど、そういう姿勢はどうやって身に付けられたんですか?

土屋: 僕自身は、メインストリームではなくアウトサイダーとかチャレンジャーでいるのが好きなんですよね。

 僕が社長になったのは2002年です。それまでホームセンターの売上はカインズがトップでしたが、社長になった直後に、DCMホールディングスという、売上高が2倍くらいの会社が発足しました。そのときはショックだったけれど、チャレンジャーでいられるという意味では、かえってよかったと思っているんですよ。

 もう1つ、震災の経験も大きいです。カインズは東日本に店舗が多かったので、震災が起きて88店舗をいったん閉店しました。どうやって復旧するかとか、従業員とその家族の安全をどう確保するかとか、数カ月の間、ものすごく集中して対応しました。その時に思ったのは、「後悔はしたくないな」ということです。何かあって店をいっぺんに閉めなければいけないこともあるけれど、せっかくこの大人数でやっているんだから、やるべきだと思うことは、「いつか」ではなく、「いま」やらなければと、強烈に思ったんです。

長谷川: なるほど。土屋さんは、2代目の経営者ですよね。僕が非常に興味があるのは、創業家の会社とそうでない会社の違いなんです。

 単純に言うと、いまの日本では、会社の方向性を大きく変えるのは創業家でないと無理なんじゃないかと思うんですよ。サラリーマン社長で、あと3年の任期だから……、みたいな人にはできないし、みんなもついていかないだろうと。カインズの場合は、どうですか?

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土屋: それは(創業家経営者とサラリーマン経営者は)、全く違いますね。

 ただ、創業家の中でも、創業者とそれ以外は全然違うんですよ。創業者は自分で作った人で、会社が自分そのものだから、自分で会社をつぶすのもありなんです。創業者じゃない創業家の人は、創業者と同じような感覚の人もいれば、ともすると、正反対に出ることもあるでしょうね。

 僕も、カインズがコケれば死ぬな、とは思うんですが、一方で、カインズが自分の子ども、みたいな感覚もないんです。

長谷川: 2代目や3代目が創業家の人の場合と、そうでない場合もありますが、それについてはどんな違いが出てくると思いますか?

土屋: 社員から社長になる場合、やっぱり思い切った手は打ちづらいのかもしれないですね。ただ、個人のキャラクターの違いということもあって、一概には言えません。

 僕がラッキーだったのは、父である会長はグループの本部に出社して、カインズにはあまり来ない。すると目が届かないから、わりと好きなことができたんです。創業者というのは、その性として気になることがあったら言わずにはいられないですからね。

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