通常の分散型データベースであれば、サーバの台数を増やしたり、個々のサーバ性能を高めることで規模の拡大やスピードアップが図れるが、ブロックチェーンの場合、参加しているノード全てが同じデータを持ち、同じ処理を行う仕組みであるため、台数が増えたところで処理スピードは変わらない。
よってブロックチェーンは、取引量や速度が求められる業務には向かないということになる。ビットコインの例で分かるように、ブロックチェーンは金融分野との相性が良いものの、決済などの用途には不向きだ。
「現状、ビットコインやイーサリアムなどのパブリックチェーンでは、世界全体で秒間数回くらいしかトランザクションを送れないんです。プライベートチェーンでも、一般的には多くて秒間数千回程度。既存のデータベースに比べると貧弱で、エンタープライズの要件には耐えられません。しかも、台数を増やしてもスケールするわけではない。これでは、適用できるシステムは制限されるでしょう。多くのエンジニアがこの課題に取り組んでいますが、この点が解決されない限り、マス向けのシステムにブロックチェーンを使うのは、なかなか厳しいと思います」(榎本さん)
一方、比較的トランザクションが少ない分野であれば、ブロックチェーンは威力を発揮するケースがある。海外では、不動産の所有権や未上場株を「証券」化(セキュリティトークン化)して流通させるというトレンドがあるそうだ。
日本でブロックチェーン活用が進まない理由は他にもある。「海外に比べてエンジニアの数が圧倒的に少ないことは、大きな課題ですね」と榎本さんは話す。
プライベートチェーンでの実証実験や、パブリックチェーンを用いたプロジェクトの数は少なく、日本語の情報は英語圏に比べて大幅に遅れているという。事業への応用を考えると、中央組織である政府など信頼が厚く、法規制も多い日本では、ニーズがつかみにくい部分があるのも事実だ。
「海外では、規模の大きなパブリックチェーンのプロジェクトがあふれていますし、プライベートの文脈でも、実証実験を超えた導入事例が出てきました。そのため、LayerXでは国内企業だけでなく、海外プロジェクトのコンサルティングも行っています。しかし、僕たちがLayerXを設立したのは、日本のブロックチェーン技術やエンジニアをけん引したいという思いがあったためです」(榎本さん)
LayerXは、エンジニア向けコミュニティー「blockchain.tokyo」の運営や、自社事業を通して国内のブロックチェーンエンジニアを育成しようとしている。最近では、投機目的の勉強会ではなく、質の高いコミュニティーや勉強会が徐々に増えてきているという。
「毎月開催している『blockchain.tokyo』は、多いときは100人くらいのエンジニアが集まりますし、『Hi-Ether(ハイイーサ)』もとても良いコミュニティーだと考えています。ブロックチェーン全体としては、少し熱が冷めた感じもありますが、だからこそチャンスがある。うさんくさい話が消え、本質的なプロジェクトや本気でブロックチェーンに取り組む人が増えているので、ここで確固たる地位を築ければと考えています」(榎本さん)
道のりは簡単ではないものの、日本でもブロックチェーンを普及させようとしているLayerX。彼らはどこに勝機を見いだしているのだろうか。インタビュー後編では、ブロックチェーンの未来を榎本さんに聞いていく。
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