CSIRT小説「側線」 第13話:包囲網(前編)CSIRT小説「側線」(3/3 ページ)

» 2018年11月30日 07時00分 公開
[笹木野ミドリITmedia]
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@CSIRT執務室

Photo 本師都明:先代のCSIRT全体統括に鍛え上げられた女性指揮官。鍛え上げられた上司のすばらしさと比較すると、他のメンバーには不満を持っている。リーガルアドバイザーを煙たく思い、単語や会話が成立しないリサーチャー、キュレーターを苦手としている

 ワイスが本師都明(ほんしつ メイ)のところにやってきた。

 「メイ、あなた、CSIRTのメンバーが何を考えているか知ってる? 知らないで放っておくと、とんでもないことになるわよ」

 「え? どうしたんですか?」

 「知らないの? 何だか、会社を攻撃する連中のヒントをつかんだらしいのはいいけど、対策が危なっかしいったらありゃしない。法律に違反するような作戦もたくさん考えているみたいよ」

 「え? そうなんですか? 知らなかったです」

 「あなたはCSIRTの全体統括なんだから、もっとしっかりしないとだめよ。でも安心していいわ。私が片っ端から作戦をつぶしてきたから」

 「え? ちょっと、大丈夫ですか?」

 「法は法。守らないと警察からしょっ引かれるわよ」

Photo 深淵大武:人との会話は苦手でログをこよなく愛する。キュレーターを信頼している。一人で仕事をしていることが多く、寝ない。ディープダイバー。情報も海も。沖縄の海が大好き

 「それはそうなんですが、彼らも一生懸命に考えた上でのことなので、言い方も考えないと……」

 「何を甘いこと言っているのよ! いい? 今、わが社から見極さんや、深淵、志路さんがしょっ引かれたら、どうなると思ってるの? 貴重なエキスパートがいなくなり、一気にCSIRTが崩壊すると思わない? それだけは絶対に避けなければいけないことなのよ。それに比べれば、多少の攻撃を受けることなんて、何でもないわ」

 メイはショックを受けた。

 ――この人は、言い方はちょっとアレだけど、法律を武器にCSIRTのメンバーを大切に守っているのだわ。

 しばらく無言の時間が過ぎ、メイが頭を下げて話しだす。

 「ありがとうございます。その通りですね。私、浅い考えだけで大変な間違いを起こすところでした」

 「お礼なんか不要よ。当たり前のことじゃない」


Photo 志路大河:元システム運用統括。システム運用というブラックな世界をITIL導入によってシステマチックに変革した実績を持つ。CSIRTに異動となった時に、部下のインシデントハンドラーを引き連れて来た。修羅場をいくつも経験した肝が据わった苦労人。CSIRT全体統括を補佐し、陰ながら支える。相棒のキュレーターを信頼している。インシデント対応の虎と呼ばれる

 きつい言い方をしながらも、メイには心なしか、ワイスがちょっと照れているように見える。ワイスは、ついでのように話しだす。

 「あとね、それはそうと、寒いのは分かるけど、その足元、色気なさ過ぎじゃない?」

 メイは自分の足元を見た。確かに厚手のストッキングの上にソックスを履いている。ワイスは薄いストッキングに10センチは軽くありそうなハイヒールだ。

 「でも、このストッキング、あったかいですよ……」

 ワイスが会話を遮る。

 「それ、80デニールくらいあるんじゃないの? そういうのはストッキングと言わないの。タイツというのよ。タ・イ・ツっ」

 ――確かにワイスのはかなり薄い。何か、こだわりがあるのだろうか。

 「私は基本的に30デニール未満ね。一番きれいに見えるもの」

 「そうですね。確かに。でも私は寒いから無理そうです……」

 「まぁ、無理することはないわ。じゃぁ、彼らをしっかり守ってあげてね。できる範囲でいいから」

 メイは無言でうなずいた。そしてこの唐突な話題はワイスの照れ隠しではないかと思った。

第13話(後編)に続く】

Photo CSIRT小説「側線」 人物相関図

イラスト:にしかわたく

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