ワイスが本師都明(ほんしつ メイ)のところにやってきた。
「メイ、あなた、CSIRTのメンバーが何を考えているか知ってる? 知らないで放っておくと、とんでもないことになるわよ」
「え? どうしたんですか?」
「知らないの? 何だか、会社を攻撃する連中のヒントをつかんだらしいのはいいけど、対策が危なっかしいったらありゃしない。法律に違反するような作戦もたくさん考えているみたいよ」
「え? そうなんですか? 知らなかったです」
「あなたはCSIRTの全体統括なんだから、もっとしっかりしないとだめよ。でも安心していいわ。私が片っ端から作戦をつぶしてきたから」
「え? ちょっと、大丈夫ですか?」
「法は法。守らないと警察からしょっ引かれるわよ」
「それはそうなんですが、彼らも一生懸命に考えた上でのことなので、言い方も考えないと……」
「何を甘いこと言っているのよ! いい? 今、わが社から見極さんや、深淵、志路さんがしょっ引かれたら、どうなると思ってるの? 貴重なエキスパートがいなくなり、一気にCSIRTが崩壊すると思わない? それだけは絶対に避けなければいけないことなのよ。それに比べれば、多少の攻撃を受けることなんて、何でもないわ」
メイはショックを受けた。
――この人は、言い方はちょっとアレだけど、法律を武器にCSIRTのメンバーを大切に守っているのだわ。
しばらく無言の時間が過ぎ、メイが頭を下げて話しだす。
「ありがとうございます。その通りですね。私、浅い考えだけで大変な間違いを起こすところでした」
「お礼なんか不要よ。当たり前のことじゃない」
きつい言い方をしながらも、メイには心なしか、ワイスがちょっと照れているように見える。ワイスは、ついでのように話しだす。
「あとね、それはそうと、寒いのは分かるけど、その足元、色気なさ過ぎじゃない?」
メイは自分の足元を見た。確かに厚手のストッキングの上にソックスを履いている。ワイスは薄いストッキングに10センチは軽くありそうなハイヒールだ。
「でも、このストッキング、あったかいですよ……」
ワイスが会話を遮る。
「それ、80デニールくらいあるんじゃないの? そういうのはストッキングと言わないの。タイツというのよ。タ・イ・ツっ」
――確かにワイスのはかなり薄い。何か、こだわりがあるのだろうか。
「私は基本的に30デニール未満ね。一番きれいに見えるもの」
「そうですね。確かに。でも私は寒いから無理そうです……」
「まぁ、無理することはないわ。じゃぁ、彼らをしっかり守ってあげてね。できる範囲でいいから」
メイは無言でうなずいた。そしてこの唐突な話題はワイスの照れ隠しではないかと思った。
【第13話(後編)に続く】
イラスト:にしかわたく
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