2019年末、日本に外資系量子コンピュータ事業の参入が相次いだ。既にNECや富士通といった国内企業も取り組む量子コンピュータだが、GoogleやIBMといった国外の大手に比べれば遅れがちな点は否めない。背景で投資を加速する日本政府の掲げる「目標」とは。
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量子コンピュータ実用化に向けた取り組みが国内で加速している。国内でも複数のベンダーが実用化に向けて動き出している一方、2019年12月に入って外資系企業の進出が相次いで発表された。その背後には、日本政府の動きも透けて見える。今なぜ国内で量子コンピュータ業界が活発化しているのか。
2019年12月19日、英国のCambridge Quantum Computing(CQC)が「(日本法人の)ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパン(以下、CQCジャパン)の事業を拡充し、日本市場への本格参入を開始する」と発表した。日本で量子コンピュータの実用化に向けた研究や各種プロジェクトが具体化していることを受けての決断だという。
同社の事業概要について説明したCQCの最高事業責任者(Chief Business Officer)のデニース・ラフナー氏は「量子コンピューティング市場には大きなビジネスチャンスがある。2024年には市場規模が2億8300万ドルに成長するだろう」と話した。
「今後5年間は、戦略的パートナーシップやさまざまなコラボレーションが、量子コンピューティング市場において大きな収益源になる」(ラフナー氏)
同社は2014年に英ケンブリッジ大学の起業支援プログラム「Accelerate Cambridge」によって設立された企業で、従業員約85人のうち60人が科学者という技術志向のベンチャーだ。「サイバーセキュリティ」「量子ソフトウェア開発プラットフォーム」「量子化学」「量子機械学習」「最適化」「量子自然言語処理」の6つの中核分野に取り組み、世界各国の研究機関や企業とのパートナー関係や協業関係の下、多数の学術論文を発表している。
同社は、2019年3月に量子暗号デバイス「IronBridge」を製品化し、室温で動作するアプライアンス製品として提供している他、各社の量子コンピュータ用のコンパイラ兼プログラミング環境になるソフトウェア「t|ket>」を開発、提供する。
日本での事業展開について説明を行ったCQCジャパンの結解秀哉(けっけしゅうや)社長は、日本市場について「さまざまな業界から世界をリードする企業が集中」「R&Dに積極的」「700以上の大学と多くの研究機関」「優れた科学者・エンジニア」「アジア地域へのアクセス」といった条件が整っていることを指摘した。同社は今後、国内でIronBridgeを軸としたサイバーセキュリティ分野を中心に、量子化学や量子機械学習にも優先的に取り組むとしている。
CQCが発表を行ったのと同じ12月19日の午前中には、東京大学とIBMが「Japan-IBM Quantum Partnership」の設立に向けて検討を開始すると発表した。このパートナーシップを受け、IBMは現在米国内で15台が稼働中だという同社のゲート型量子コンピュータ「IBM Q System One」を日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)の拠点に設置、運用するという。
また、東京大学本郷キャンパス内に、次世代量子コンピュータ向けのハードウェアを含む技術開発のために「量子システム開発センター」を設置し、ここに開発用機器としてIBM Q Systemをベースとした開発用機材を設置する予定だという。これらの計画が実現すれば、計2台のゲート型量子コンピュータが国内で稼働することになる。
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