日本企業のAI活用「できる」「できない」の分かれ目は?――デロイトが2019年版調査結果を発表

デロイト トーマツ グループは「AIガバナンス サーベイ」2019年版の調査結果を発表した。調査結果について、同社は「AIに対する投資やAI専門家の投入を検討する際は、ある程度思い切った規模で始めることが重要だ」としている。

» 2020年01月27日 12時03分 公開
[ITmedia]

 デロイト トーマツ グループ(以下、デロイト)は2020年1月24日、日本企業を対象とした「AIガバナンス サーベイ」2019年版の調査結果を発表した。企業でのAI(人工知能)の利用状況や、リスク管理、ガバナンス構築の実態を調査した。調査は日本に拠点を置く全業種の全部門を対象にオンラインアンケートで実施した(調査期間:2019年9月18日〜11月15日、有効回答件数:172件)。

 調査結果からは、AIを活用する企業の約半数がPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施している点や、AI活用に当たって注意が必要な“リスク”が認識されつつあるものの、対応の方針が明確になっているわけではないことなどが明らかになった。

 AIの利用状況については「利活用している」または「利活用に向けた取り組みを始めている」と回答した割合は56%。そのうち、本格運用の前にPoCを実施している企業は47%だった。

AI導入における、日本企業の到達フェーズ(n=172、出典:デロイト トーマツ グループ「AIガバナンス サーベイ」2019年版)

 また、PoCを実施した企業のうち73%が本番運用に移行。本番運用によって「目的を達成した」と回答した企業の割合は、PoCを実施した企業の62%だった。デロイトは「本番運用から目的達成に至った企業の割合が1割しか減少していないことから、PoCの時点で実現可能性の評価体系が機能している」と分析している。

できる企業はさておき……「AIを活用できない」企業が明かす切実な理由

 一方、同社がPoCから本番運用に移行できなかった企業に複数回答方式で理由を聞いたところ「システム化や本番運用する体制・人材が準備できない」(51%)、「PoCで目標としていた予測精度を達成できない」(47%)、「ROIが期待していた基準に達しない」(40%)といった回答が集まった。

 AIを利活用できていないと回答した企業に同じく複数回答方式で理由を聞くと、人材不足が最大の原因として挙げられた。具体的には、「PoCを企画する人材がいない」(42%)、「活用すべきシーンが思い付かない」(39%)、「AIついて理解していない」(37%)、「予算が確保できない」(29%)といった回答が集まった。

 この他、AIへの投資金額、社内のAI専門家の人数とビジネス目的の達成度合いの関係を調べた結果、十分な投資金額やAI専門家を投入せずにAI開発を始めると、ビジネスの目的を達成できない恐れが高まることが示唆された。具体的には、投資金額が5500万円未満またはAI専門家の人数が9人以下の場合、目的を達成した割合が約3割だったが、投資金額が5500万円以上またはAI専門家の人数が10人以上だった場合、目的を達成した割合は5〜6割に増えた。デロイトは「AIに対する投資やAI専門家の投入を検討する際は、ある程度思い切った規模で始めることが重要」としている。

「誤判断」「プライバシー侵害」「外部委託トラブル」……実は対策が不十分なAI活用の“リスク”

 AI利活用の到達フェーズと同時にデロイトが調査したのが、「AIが特定の性別や国籍等のグループに不公平な判断を行うことにより、社会的非難を受ける」「外部に公開しているAIに大量の判断をさせ、その結果を基に知財(データ・モデル)が流出する」「AIの開発を外部委託した際、学習データや学習済みモデルの所有権で、トラブルになる」といった、AI活用に付いて回るリスクへの対応だ。

AI活用のリスクについて、日本企業がどう認識、対応しているかデロイトが調査した結果(出典:デロイト トーマツ グループ「AIガバナンス サーベイ」2019年版)

 同社が上記を含むリスクを9項目への対応状況を尋ねたところ、それらについて「未認識」と回答した割合は最高でも16.7%と低く、リスクはおおむね認識されていた。「リスクに該当するAIを未使用」と回答した割合が比較的高ったことから、デロイトは「リスクの小さいAIから活用を進めていることが示唆され、AIの利用範囲が限定的になっている可能性がある」と分析している。

 デロイトでは差別的かつ不公平な判断による社会的非難のリスクには考慮すべきルールを取り込んだモデル開発を開発したり、プロファイリングによるプライバシー侵害リスクについてはデータ提供者との間で具体的な利用目的を前提とした継続的な同意確認を実施したりといった「適切な対処」ができればAIの利用範囲は拡大するとしている。

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